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December 2023

ツルにちなんだ和菓子

  • 「初日の出」と木型
    Photo: 虎屋
  • ツルとカメの意匠の落雁(写真 左)とその木型(写真 右)
    吉田コレクション Photo: 虎屋
  • 「丹頂(たんちょう)」 Photo: 虎屋
  • 1918年の菓子見本帳(菓子のデザイン帳)に掲載されている「丹頂」(左と右)
    Photo: 虎屋
  • 「鶴の子餅」(鳥の子餅)
    Photo: 虎屋
ツルとカメの意匠の落雁(写真 左)とその木型(写真 右) 吉田コレクション Photo: 虎屋

伝統的な和菓子には、四季折々の風物が表現されている。その中で、おめでたいときに供されるお菓子にツルをかたどったものがみられる。和菓子研究家にツルにちなんだ和菓子の紹介とともに、和菓子の歴史や味わい方などについて話を聞いた。

約500年の歴史がある、和菓子の老舗「虎屋(とらや)」には、虎屋文庫(とらやぶんこ)という和菓子の資料室がある。そこで主席研究員を務める中山圭子(なかやま けいこ)さんは説明する。「本来、菓子とは木の実や果物を指す言葉でした。16世紀に千利休*が茶の湯を大成しますが、当時の菓子は、果物や餅類など素朴なものが中心でした。菓子が大きく発展するのは17世紀で、京都を中心に四季の風物をモチーフにした高級な菓子が作られ、宮中や公家、大名など、富裕な層に親しまれてきました」。

伝統的な和菓子は、米や豆類などの植物性の材料で作られる。木型を用いる落雁(らくがん**)や、型に流し込んで作る羊羹(ようかん***)、道具を使い手わざで形作りをする生菓子****などの種類がある。主なモチーフには、植物(桜や梅)、動物(チドリやガン)、自然現象(雨や雪)、景色(浜辺や月)、調度(扇や短冊)などがあり、多種多様だ。「和菓子は‶食べる芸術″と言われるように、四季折々の風物を美しく意匠化しています。そのモチーフは、和歌に詠(よ)まれ、絵画や染織、焼き物などの題材として好まれてきたものも多く、今もその伝統は受け継がれています。中でも、ツルは和菓子の動物意匠の代表です。舞う、立つ、うずくまるなど、ツルの美しい姿がさまざまに意匠化されてきました」。

「鶴は千年、亀は万年」ということわざがあるように、ツルとカメは長寿の象徴とされ、新年や婚礼、慶事には鶴亀のセットの菓子が縁起物としてよく用意されるという。

ツルとカメの意匠の落雁(写真 左)とその木型(写真 右) 吉田コレクション Photo: 虎屋

「ツルを表現した菓子といっても、店によってデザインは千差万別です。当社の「初日の出」という銘の和菓子は、日の出を背景に、羽を扇のように広げ、飛翔するツルの姿をかたどった意匠。また、つくね芋*****を使った白い薯蕷饅頭(じょうよまんじゅう******)の「丹頂(たんちょう)」は、頭上にタンチョウ(「希少なタンチョウに一年中出会える自然公園」参照)の特徴である鮮やかな紅点をおき、焼きごてを押しあて羽を表現しています」。

「丹頂(たんちょう)」 Photo: 虎屋
1918年の菓子見本帳(菓子のデザイン帳)に掲載されている「丹頂」(左と右) Photo: 虎屋

他に、ツルの卵をかたどった「鶴の子餅」(鳥の子餅)という和菓子もある。米粉の生地に砂糖を混ぜてつくる餅状のすあまを卵形にしたものだ。出産や子どもの入園・入学祝などに紅白で用意される。

「鶴の子餅」(鳥の子餅) Photo: 虎屋

「和菓子は五感の芸術といわれます。おいしさ(味覚)、色かたちの美しさ(視覚)、小豆(あずき)や山芋などの素材がもつほのかな香り(嗅覚)、ふんわり、しっとりなどの食感(触感)があります。さらには、一つひとつにつけられた菓銘(名前)を聞くこと(聴覚)があげられます。菓銘の多くは和歌や俳句に由来します。菓銘そのものがもつ言葉の響き、あるいは、その命銘のもととなった和歌などから連想されるイメージなども楽しみます。五感を使うことで、和菓子はよりおいしく味わえます」。日本を訪れたら、その奥深い和菓子の世界を存分に楽しんでいただきたい。

* 1522年〜1591年。茶人、茶道の大成者で「千家(せんけ)」の流祖。
** 米の粉、砂糖などを混ぜた生地を木型に詰め、打ち出したもの。干菓子。
*** 小豆・砂糖・海藻から作る寒天などを使用した生地を型に流してかためたもの。
**** 生菓子は、日持ちのしない菓子で、餡を主に使い、手仕事で細工される美しい和菓子。
***** 山芋の種類のひとつ。山芋の中では粘り気が強く、加熱するとふっくらする特性をもつ。
****** 一般に、すりおろしたつくね芋に、砂糖と米粉を混ぜた生地で、餡を包み蒸しあげたもの。