VOL.196 SEPTEMBER 2024
JAPAN’S ENJOYABLE PUBLIC AQUARIUMS
ダイナミックな生態展示を楽しめる「北の大地の水族館」
2012年に日本唯一の水族館プロデューサー・中村 元さん協力の元、リニューアルオープン。
Photo: ISHIZAWA Yoji
北海道北見市の道の駅*「おんねゆ温泉」にある通称「北の大地の水族館」(山の水族館)**では、1メートルを超すサイズに成長した幻の魚ともいわれる淡水魚「イトウ」が飼育されていることでも知られ、人気の高い水族館だ。
夏は最高35度、冬は最低マイナス20度を記録するほど寒暖差の激しい北海道の道東に位置する北見市。おんねゆ温泉郷は、その北見市にある温泉街で、阿寒摩周、大雪山、知床の三つの国立公園に囲まれている自然に恵まれた地域にあり、開湯から120年以上の歴史を持つ。その温泉街のシンボルとして、道の駅「おんねゆ温泉」エリア内に建てられたのが「北の大地の水族館」だ。館長の山内創さんにその特色を教えてもらった。
「この水族館は、北海道の淡水魚、そして世界の熱帯淡水魚と、淡水生物を専門に展示しています。北海道の淡水魚を展示するエリアでは、四季折々で変化する川の中の様子を再現した水槽や、1m以上にも成長した日本最大級の淡水魚イトウを20匹以上飼育していますが、このイトウの飼育数は日本最多です。サケ科のイトウは、現在では北海道の一部の河川や湖沼にしか確認されていない絶滅危惧種です。そのイトウが大水槽の中を泳ぎまわる様子をご覧いただけます。また世界の熱帯淡水魚エリアではおんねゆ温泉の温泉水を使用した水槽で見事に美しく成長した魚をご覧いただけます。」
この水族館では、希少なイトウが捕食する様子を見ることができる。
「イトウがニジマスを捕食する様子は5月下旬から1月ごろにかけて、火曜・木曜・土曜の14時30分からご覧いただけます。食事を通じて命の大切さを学んでいただく時間となっています。」
また、生態環境も再現しており、魚たちが生きて泳いでいる川の中の様子そのままに見て楽しめる展示も見どころだ。この水族館の展示企画を立案した日本唯一の水族館プロデューサー・中村 元***さんによれば、特に力をいれたのが「北の大地の四季」という展示。北海道でも指折りの寒さの厳しい北見市の自然の特徴を最大限生かすという斬新な発想から生まれ、工夫された展示法だ。
冬に川の水面が凍っている様子を再現した水槽「北の大地の四季」
Photo: 北の大地の水族館
「冬はマイナス20度を超え、湖だけではなく川まで凍る厳しい自然環境を、館外に設置した水槽で再現しました。例年1月から2月頃の厳寒期のおよそ1か月にわたり水面が凍り、その氷の下で魚が春をじっと待つ様子を見ることができます。」
また、オショロコマという希少種を鑑賞できる、滝つぼを再現した水槽も見どころだ。
「オショロコマはイワナ****の仲間で、北海道の冷水域に生息する美しい魚です。北海道の雄大な川でオショロコマがたくましく泳ぐ様子を、滝の生み出す激流を再現した滝壺の水槽で鑑賞いただけるようにしました。まるで滝壺の中に入りこんだような臨場感が味わえると思います。」
いずれも北海道の雄大な自然が持つ景観や躍動感と、そこで生きる魚たちの生態をそのまま閉じ込めたかのようなリアルでダイナミックな展示になっている。
「海外からの見学者のために、展示の横にあるQRコードを読み取ると英語、中国語(繁体字/簡体字)、韓国語で解説が読めるような工夫もしております。今後北海道を訪れた際には、是非当館にも足を運んでいただければ幸いです。」
* 日本で一般道に設けられる休憩施設であり、一定の要件があり、市町村等の申請による政府の登録が必要。現在、登録数1200余(2024年8月)。「休憩機能」に加え、観光情報等の「情報発信機能」と地域振興施設がある等「地域連携機能」を有する必要がある。
** 条例上の正式名称は「山の水族館」。「北の大地の水族館」という通称は開業2年目に地元の方から募った愛称で、北見市の公文書以外では北の大地の水族館を使用している。
*** 中村元(なかむら はじめ)/鳥羽水族館に入社後、PRやマーケティングに携わり、水族館のリニューアルに成功。退社後、日本初の「水族館プロデューサー」となり、新江ノ島水族館(神奈川)、サンシャイン水族館(東京)、北の大地の水族館/山の水族館(北海道)、マリホ水族館(広島)など、数々の水族館のリニューアルを手がける。
**** サケ科イワナ属の淡水魚。日本の代表的な渓流魚として知られる。
By MOROHASHI Kumiko
Photo: ISHIZAWA Yoji; Northern Daichi Aquarium