VOL.192 MAY 2024
JAPAN’S HEALING FORESTS (PART 1) [知ってほしい日本のカルチャー]400年続く日本の伝統話芸-笑いと人情が詰まった「落語」の魅力-


日本で落語家として活躍する桂福龍さん
Photo: 桂福龍事務所

表情やジェスチャーなどで観客の想像力を膨らませる
Photo: 桂福龍事務所

カナダ出身で2001年に来日し、現在はプロの落語家として活躍する桂福龍(かつら ふくりゅう)さん。海外で英語落語の公演を行い、世界に日本の伝統芸能の「笑い」を広めようとしている桂福龍さんに、落語のおもしろさや楽しみかたを教えてもらった。

落語は400年以上前の江戸時代に生まれた日本の伝統話芸です。当時の人々の暮らしや、愛憎うずまく人間模様、社会風刺などが一つのストーリーの中でユーモアたっぷりに描かれており、時代を超えて今なお受け継がれています。私はもはや、芸術の一つだと思っています。

落語の魅力はなんと言っても、一人の落語家が全ての登場人物を演じること。落語家は老若男女、さらには動物の役まで、口調や声色、表情、ジェスチャーを変えて大きな動きで演じ分けます。たとえ言葉や時代背景がわからなくても大丈夫。落語は自由に創造力を膨らませて楽しむエンタテインメントです。テンポの良い会話劇の雰囲気から、頭の中で物語のイメージがどんどん浮かんでくるはずです。

例えば、うどん屋で会計をごまかそうとして失敗してしまう「時うどん」という噺では、扇子を箸(はし)に見立ててうどんを食べるシーンがあります。日本語特有の擬音や動きだけで実際にうどんをすすって食べているように見えるので、外国人が初めてそのシーンを観たらびっくりするかもしれません。こうした技巧も落語ならではの面白さです。

落語では扇子を様々なものに見立てて使う。左の写真はその一例で、扇子を箸(はし)に見立てて、うどんをすする動作などを表す。右の写真は、様々なスタイルの扇子。 Photos: 桂福龍事務所

以前、カナダで暮らす祖母にこの「時うどん」の噺(はなし)を披露したことがあります。祖母は食事のマナーに厳しく、こどもの頃に私がパスタをすする音を出したときはよく怒られていました。そんな祖母の前で「時うどん」の噺を演じたらどうなるのか。最初は怒られるかもしれないと緊張していたのですが、うどんをすするシーンで祖母はすごく笑ってくれたのです。とても喜んでいる様子を見て、「笑い」は文化を越えるのだと実感しました。

私自身、初めて落語に出会ったとき、落語について何も知りませんでした。しかし、友人から桂枝雀(かつら しじゃく)師匠の英語落語のビデオを見せてもらったところ、すぐに「落語ホリック」とも言えるほど夢中になってしまいました。1分間に何度も笑いが起こる欧米のスタンダップコメディ*とは異なり、話芸とパフォーマンスだけで物語を演じる落語は、日本文化に馴染みがない外国人にとっても新鮮に映るはずです。

こうした落語のおもしろさを世界にもっと広めたいと考え、私は日本語の落語を英語にアレンジして海外でも落語講演を行っています。英語にアレンジする際に難しいのは、日本語のダジャレをそのまま英語に翻訳するだけではつまらなくなってしまう点。物語の雰囲気や教訓を維持したまま、英語圏の文化や今の時代に受け入れられやすい新しいジョークを考えるようにしています。これが結構大変なのですが、「笑い」は世界共通なので、自分がおもしろいと感じるものを信じて噺をつくっています。

外国人に向けて英語落語を披露する桂福龍さん Photo: 桂福龍事務所

私は2016年から落語家の道を歩んでいますが、まだまだ修業をしなければならないと思っています。落語の魅力を世界中に知ってもらうために、これからも落語界を盛り上げていきたいです。

桂福龍
2016年10月に桂福團治(かつら ふくだんじ)一門に入門し、11番目の弟子となる。関西を拠点に日本各地の寄席に出演。落語の魅力を世界に発信したいという想いのもと、米国のラスベガスやサンフランシスコ、ハワイのほか、カナダ、フィリピンなどでも公演している。
桂福龍

* 欧米やアフリカなど世界中で主力となっているコメディのスタイル。演者一人がマイク1本でステージに立ち、客席に向かって話しかけるスタイルの話芸。社会風刺や皮肉などを織り交ぜながら、笑いの中に様々な事柄について語る。


by Katsura Fukuryu
Photo: Katsura Fukuryu Office

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