VOL.192 MAY 2024
JAPAN’S HEALING FORESTS (PART 1)
[日本の技術]優れた耐火性を備えた「夢の木材」
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Photo: 株式会社シェルター
通常の木材と同じように加工でき、外観の木の温もりはそのままに、優れた耐火性を備えた夢の木材が日本の企業によって開発された。それは、石膏ボードを挟み込む三重構造の木質耐火部材で、この新素材により、これまで鉄筋コンクリートや鉄骨でしか建てられなかった大規模高層建築が、木造によって建てることも可能となったという。
森林資源に恵まれた日本では、古来より多層階の建造物や大規模な建築も木を用いて造られてきた。現存する世界最古の木造建築の一つとされる法隆寺*(奈良県斑鳩町)の五重塔が典型例であり、当時としては極めて高い技術で建造された高さ30m余りの美しい塔は創建以来1300年以上もの歴史を刻んでいる。五重塔を始め法隆寺の建造物の数々は、ユネスコの世界文化遺産「法隆寺地域の仏教建造物」として1993年に登録されている。
しかしながら、そのような木造建築の高い技術を誇る日本にあっても、素材としての木材の「火に弱い」という大きな弱点の克服は困難だった。歴史的にも、8世紀末から千年以上都だった京都、あるいは江戸時代(17世紀初頭から19世紀後半半ば)に政治・経済の中心都市・江戸(現在の東京)も幾度となく大火に見舞われ、街中が灰燼(かいじん)に帰したこともあった。それゆえ、江戸時代が終わって近代化が始まって以来、主に防火の観点から、特に大規模・多層階の木造建築物は日本国政府によって規制されてきたのである。
かたや、素材としても木の持つ質感、温もりはそのままに、燃えない木材をつくることができれば、大規模な木造建築物が可能にはなる。しかし、「燃えない木材」は、これまでは夢のような話であった。
その「燃えない木材」の実現という困難な技術的課題を解決した建築用新素材が、木質耐火部材「COOL WOOD」**だ。1974年創業、本社を山形市に置く株式会社シェルターが開発し、2013年に実用化させた。「COOL WOOD」は、荷重を支える木材の中心部と、燃え止まり層と呼ばれる石膏ボード、そして、木材による表面材の三重構造だ(別掲写真参照)。中心部や表面材は、地域特産のスギやヒノキなども使用できる。
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Photo: 株式会社シェルター
「COOL WOOD」は、日本政府(国土交通省)の厳しい耐火性能試験もクリアしている。最も厳しい3時間耐火性能試験では、試験体に荷重を加えた上で、1,000℃を超える炉内で3時間燃焼、その後も炉を締め切ったままで9時間。合計12時間経過後に炉を開け、荷重を支える中心部に焦げ目一つないかを確認する。これは、火災発生時、長時間にわたって消火活動ができない場合でも、自然に鎮火し、建物が崩壊しないことを確認するものだ。
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Photo: 株式会社シェルター
「COOL WOOD」は2009年には特許を取得、2017年には3時間耐火性能試験に合格している。環境問題に強い関心を示す欧米各国でも注目を集めており、カナダとスイスでも特許を取得、スイスとアメリカの企業と技術提携を実現した。2020年には、「木質耐火部材の開発」で文部科学大臣表彰科学技術賞(技術部門)を受賞した。
そして今、「COOL WOOD」を採用して木の持つ質感、温もりを活かした大規模な建築物が全国各地で増えつつあるという。山形県南陽市の世界最大の木造コンサートホール***や神奈川県小田原市の駅直結型商業施設、東京都中央区日本橋兜町の10階建てオフィスビル。観光客でにぎわう東京都江東区の新豊洲市場の江戸時代の街並みを再現したオープンモール「豊洲 千客万来」でも食楽棟の柱と梁に「COOL WOOD」が用いられている。
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木材の需要が拡大すれば、現在、衰退気味の林業の活性化にもつながり、荒廃した森がよみがえることで二酸化炭素の吸収増加も図ることができる。また、木材の地産地消を進めれば、地域の活性化にもつながる。優れた耐火性を備えた「夢の木材」の様々な可能性は広がりつつある。
* 7世紀初め,聖徳太子(574年から622年)の創建と伝えられる。 670年に全焼し、その後再建されて現在に至る
** 株式会社シェルターの登録商標
*** 2015年12月21日にギネス世界記録™「最大の木造コンサートホール」に認定された
By Fukuda Mitsuhiro
Photo: Shelter Co., Ltd.