VOL.192 MAY 2024
JAPAN’S HEALING FORESTS (PART 1)
里山を豊かに彩る「美人林」
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約3000本のブナが立ち並ぶ「美人林」 Photo: Ishizawa Yoji
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森林浴の場として整備された、美しい立ち姿のブナの木々 Photo: Ishizawa Yoji
東京から北へ約200km余り、新潟県の南部に位置する十日町市(とおかまちし)にある「美人林(びじんばやし)」は、里山*に広がるブナ林だ。年間約10万人の観光客が訪れるこの森について専門家に話を聴いた。
「美人林」は、約3ヘクタール(3万m2)ほどの丘陵に広がる樹齢100年余りのブナの木・約3,000本が立ち並ぶ森林だ。森のすぐそばにある十日町市立里山科学館越後松之山「森の学校」キョロロの学芸員・小林 誠(こばやし まこと)さんに美人林について教えてもらった。
「美人林は原生林ではなく、1920年頃、燃料の木炭(もくたん)にするために、当時あったブナ林は全て伐採されてしまいました。一度、裸の山にしたところから、一斉にブナの芽生えや稚樹が成長し、現在の姿になったものです」
スラリとした立ち姿の美しいブナが生え揃う林ということから「美人林」という名がついたという。
「美人林という名称の由来については諸説ありますが、有力なのは、1960年頃、この辺りの集落を訪れた材木商に近隣の住民がブナの立ち姿の美しさを話したところ「人間に例えれば、美人の頃」と応えたのが、美人林と呼ばれるきっかけだと言われています。その後、森林浴(しんりんよく)の場としての整備が始まり、「美人林」の名が全国へと知られるようになりました」
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撮影スポットとして人気の高い「美人林の池」 Photo: Ishizawa Yoji
美人林には、森に沿う形で遊歩道もあるが、地元集落の「美人林を守る会」によって散策しやすいよう枯れ枝の除去や下草刈りなどの整備が続けられているため、訪れた人は森の中を難なく自由に歩くことができる。この保全活動は全国的にも高い評価を得ていて、今ではこの美しい森を楽しもうと、海外からも多くの観光客が森林浴を目的にやってくるという。
「地元・松之山温泉では宿泊されたお客様をメインとしたオプショナルツアーを用意しており、地元ガイド「里山のめぐみ案内人の会」がガイドしています。また、「森の学校」キョロロでも学芸員がブナ林を散策する際のガイドを行っており、どちらも英語での対応が可能です」
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キビタキなど多くの野鳥が見られる森の中 Photo: 十日町市立里山科学館越後松之山「森の学校」キョロロ
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様々なトンボなどを観察できる森の中 Photo: Ishizawa Yoji
「初夏から真夏にかけては森の緑が深まりゆく美しい季節ですが、雨の日にぜひ見ていただきたいのが、雨が幹を伝って根元まで流れ下る「樹幹流(じゅかんりゅう)」(写真参照)。ブナの枝は鋭角めに上方に向かってのびていて、降った雨を幹に集めやすい樹形をしています。また樹皮はすべすべしているため雨水がきれいに流れるのです。雨に濡れた樹皮は艶やかな黒色ですが、この幹に付着する「地衣類(ちいるい)」**の白い模様が黒い幹とのコントラストで美しく浮きたつ様は壮観です。この雨の日のブナ林が一番美しいというかたもいるくらいです。多くの野鳥も観察でき、「美人林の池」という人気の高い撮影スポットもあります。地域の宝物である美人林に、ぜひ多くの人に訪れていただきたいです」
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雨の日にしか見られない「樹幹流」。ブナの樹皮に美しい縦縞模様が現れる。 Photo: 十日町市立里山科学館越後松之山「森の学校」キョロロ
* 原生的な自然と都市との中間に位置し、集落とそれを取り巻く二次林、それらと混在する農地、ため池、草原などで構成される地域のこと。
** 菌類と藻類の共生体のこと。形態には葉状、樹状、鱗(うろこ)状、かさぶた状などがある。
By Morohashi Kumiko
Photo: Echigo-Matsunoyama Museum of Natural Science “Kyororo”, Ishizawa Yoji