VOL.192 MAY 2024
JAPAN’S HEALING FORESTS (PART 1)
日本初の世界自然遺産「白神山地」の森林
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白神山地のシンボルである樹齢400年のブナ
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秋田県藤里町の小岳(こだけ)山頂(標高約1,042m)より眺める白神山地の世界遺産地域 Photo: 白神山地世界遺産センター
日本では初めてユネスコ世界自然遺産*の一つに登録された白神(しらかみ)山地は、ブナを中心とした原生的な天然林が、大面積にわたって純林**状態で維持されている世界的に希少な地域だ。白神山地世界遺産センターの白鳥 万里(しらとり まり)さんに話を聞いた。
白神山地の南麓にある白神山地世界遺産センター「藤里(ふじさと)館」***は、世界自然遺産「白神山地」の価値をより深く学ぶことができる資料館だ。自然アドバイザーとして「藤里館」に常駐する白鳥さんに、白神山地の特徴について教えてもらった。
「白神山地は、日本の東北地方の北側にある青森県と秋田県にまたがる山々の総称で、落葉広葉樹であるブナを中心とした樹々により、四季折々で鮮やかな変化を見せてくれます。また、木の実や山菜、キノコといった恵みはもちろん、雨や雪を貯えてろ過する落ち葉により、里にもおいしいお水を与えてくれてる命のゆりかごのような森です」
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標高200から1,250mの山岳地帯である「白神山地」は、約13万ヘクタールに及ぶ広さだ。その中心部のおよそ17,000ヘクタールがユネスコ世界自然遺産として登録されている。
「広大な白神山地のうち、特に人の手を加えられていない地域が、東アジア最大の原生的なブナ林とその生態系を認められ、1993年に世界自然遺産に登録され、昨年2023年12月に登録30周年目を迎えました。ブナはヨーロッパや東アジア、北米にも多く分布していますが、その中でも約12,000から8,000年前の多様な植生をとどめていること、また世界有数の多雪地帯のブナ林という特徴が評価されています」
世界自然遺産に指定された完全な保全エリアには一般の立ち入りはできないが、藤里館周辺には白神の自然を気軽に楽しめる場所も多いそう。
「『癒し』というテーマでおすすめなのは、秋田県藤里町の岳岱(だけだい)自然観察教育林や、同県八峰町(はっぽうちょう)の留山(とめやま)、青森県西目屋(にしめや)村の世界遺産の径(みち)ブナ林散策道、同県深浦町(ふかうらまち)の十二湖(じゅうにこ)などです。青々とした木の葉からこぼれ落ちる日の光がきらきらと美しい原生林の中、平坦な歩道をゆっくりと歩きながら楽しむことができます」
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森の他に白神の自然がもたらす豊潤な沢もおすすめだそう。
「白神山地の森以外の顔に、たくさんの沢があります。岳岱自然観察教育林の奥などで、美味しい沢水を楽しむことができます。白神山地の水は国内有数の超軟水で、冷たくても口当たりがまろやかでおいしいです。足を運んだ時には、ぜひ体験していただきたいです」
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また、海外の人には山の中に行く前に里のスギ林の観察もおすすめしているという。
「スギは実は日本固有種で、白神山地は天然のスギが広く自生するエリアでもあります。かつて、そのスギは木材として北東北の重要な商品で、産業となっていたという歴史的要素も、海外の方の興味を引くかもしれません。
里山を彩る針葉樹のスギから、山奥にそびえ立つ広葉樹のブナへの変化や比較も楽しんでもらいたいという白鳥さん。ぜひ訪れた際には、両方の魅力を確かめてもらい、日本の森林をより深く楽しんでいただきたい。
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* ユネスコの世界遺産は、①文化遺産、②自然遺産、その両方の価値を持つ③複合遺産の3種類ある。
** 一種類の樹種(じゅしゅ)から成る森林。単純林とも呼ばれる。この場合の樹種は高木をのみを指し、低木や草花は問わない。
*** 秋田県藤里町にある1998年に環境省が設置した資料館。白神山地の自然や世界遺産に関する資料を展示しており、館内には自然アドバイザーが常駐している。
**** 2024年、2025年は秋のみ入山可能。
***** ガイド付きでのみ入山可能。
****** 5月から11月まで入山可能。
******* 4月から12月まで入山可能。
By Morohashi Kumiko
Photo: Shirakami-Sanchi World Heritage Conservation Center; PIXTA