VOL.193 JUNE 2024
SUMMER FUN IN JAPAN: SEASIDE FESTIVALS AND EVENTS 海を舞台に伝統的な音楽を奏でる優美な船神事


管絃祭の一場面。華やかに飾り付けられた御座船ござぶね(中央)が、三そうの小船とともに瀬戸内海を航行する。
Photo:新谷 孝一

大鳥居をくぐり、戻ってきた御座船ござぶね
Photo:新谷孝一

いにしえの貴族たちの優雅な船遊びをうつした神事が、広島県廿日市はつかいち市の嚴島いつくしま神社で行われている。

1996年に世界文化遺産に登録された嚴島神社は、広島県廿日市はつかいち市の嚴島いつくしまにある。瀬戸内海西部の広島湾に浮かぶ島で、一般的には「宮島みやじま」とも呼ばれている。嚴島いつくしまの緑濃い森林が海岸線に迫る自然の中、歴史的な木造建物が海に向かって建ち並んでいる景観が印象的だ。この嚴島神社の最大の神事が管絃かんげんさいだ。10世紀から11世紀ごろ、当時の都、京都では貴族たちが池や河川に船を浮かべて乗り、楽器を奏でる「管絃かんげん*の遊び」を行っていた。今からさかのぼること800年余り。嚴島いつくしま神社を造営した平清盛たいらのきよもり**が、その遊びをうつして神様をお慰めする神事として執り行うようになったのが管絃かんげんさいの始まりという。開催は、毎年旧暦の6月17日(2024年は7月22日)とされる。夕方から深夜にかけて行われ、月明かりの下、管絃かんげんを奏しながら海上を行き来するさまはとても優雅で美しく、さながら、いにしえの朝廷の儀式が再現されたかのようだ。

宮島観光協会の鈴木すずき 直知なおともさんに管絃かんげんさいについて聴いた。「管絃かんげんさいは三そうの小船にかれた御座船ござぶねに神様と管絃かんげんの奏者をのせ、伝統的な音楽を奏でながら嚴島いつくしま神社と周辺の摂社せっしゃ***を巡る神事です。夕方に嚴島いつくしま神社を出発し、長浜神社などいくつかの摂社せっしゃなどを巡り、最後は嚴島いつくしま神社へ戻ります。嚴島いつくしま神社社殿から約160mの海上に建てられた大鳥居をくぐるのは夜11時頃になります。一番の見どころは、神社から離れる際に、海上でそれぞれの船が三度回るとき。中でも最後に嚴島いつくしま神社に戻り、枡形ますがた****で社殿の廻廊すれすれに管絃かんげんを演奏しながら御座船ござぶねが回るさまは迫力があり、参拝客から拍手や大きな歓声があがりクライマックスを迎えます。この儀式を終えて神様は本殿にお戻りとなり管絃かんげんさいは幕を閉じます」。


嚴島いつくしま神社の回廊に囲まれた狭い場所(枡形)に到着し三度回る御座船ござぶね
Photo: 新谷 孝一

管絃かんげんさいには、嚴島いつくしまへの観光客も含めると例年1万人前後が訪れるという。海外からの観光客も多い。鈴木さんは楽しみ方として、「御座船ござぶねが巡る長浜神社で、ちょうちん*****で船を出迎えるイベントや、別の船に乗って御座船ござぶねに伴走するという予約制の企画など、祭りをより体感できる催しに参加も可能です」と教えてくれた。

夜更けまで瀬戸の海で繰り広げられる優雅で壮大なこの夏の神事はまさに圧巻だ。機会があれば、現地で間近に楽しんでみてほしい。


長浜神社で船を出迎えるためのちょうちん。

2022年に修理された海に立つ大鳥居。高さ16.6メートル。
Photo:新谷 孝一

* 雅楽のうち、楽器のみによる合奏の形式を指す。雅楽は、日本古来から伝承されてきた神楽かぐら歌などと,5世紀頃から古代アジア大陸諸国の音楽と舞が仏教文化の渡来と前後して中国や朝鮮半島から日本に伝わり、それが融合してできた音楽芸術。用いる伝統的な楽器は、しょう篳篥ひちりき、笛などの管楽器、そう琵琶びわなどの絃楽器、鞨鼓かっこ太鼓たいこなどの打楽器がある。
** 1118年生まれで1181年没。12世紀末に武家政権を樹立した武将。武士として初めて太政大臣に任命された。太政大臣は、当時の国政の最高機関である太政官(今の内閣に相当)の最高の官。
*** 神社にある社殿は複数あり、本社に付属し、その祀られた神様と縁の深い神を祀った神社をいう。
**** 回廊に囲まれた方形の場所。(2024年は回廊が修理のため、足場が組まれており船が回るのは別場所で行われる。)
***** 細い竹や木枠に紙を貼り、中にろうそくを立てて用いる照明器具。


By TANAKA Nozomi
Photo: SHINTANI Koichi ; PIXTA

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