VOL.195 AUGUST 2024
EXPLORE THE UNIQUE CHARM OF MANGA IN JAPAN [知ってほしい日本のカルチャー]「シンプルなものが美しい」と考える日本の美意識


着物姿のルース・マリー・ジャーマンさん。「日本の伝統的な衣服である着物は、四季の移ろいに合わせて色や柄を使い分けます。一枚の布に込められた、シンプルながらも深い美意識と精緻な技術を堪能できます。」と語る。
Photo: ルース・マリー・ジャーマン

アメリカ・ハワイ出身で、35年以上日本で暮らしているルース・マリー・ジャーマンさん。日本企業や自治体のインバウンド戦略を支援する事業を手がけ、日本の魅力を知り尽くしたルースさんに、今月は「日本の美意識」についてお話を伺った。

「駅のトイレが清潔で快適」「ゴミ箱がないのに街がきれいで、嫌なニオイがしない」——。初めて日本を訪れたとき、多くの人が驚くとともに、「なぜこんなに清潔なのか」と疑問に思ったのではないでしょうか。

もちろん、どの国にもきれい好きな人はたくさんいます。しかし、駅や街中などの公共スペースにゴミがほとんどなく、日本ほどの清潔感を保っている街は世界でとても少ないと思います。日本とほかの国で一体何が違うのでしょうか。


日本の街中に設置されているゴミ箱の例。可燃ゴミ・不燃ゴミ・ペットボトルなどのゴミを分別して捨てる。ゴミ箱が見当たらないときは、自宅やゴミ箱がある場所までゴミを持ち帰ることで街中や駅のきれいさを保っている。

日本ではこどもの頃からものを大切に使うことや、公共スペースをきれいに使うことをモラルとして親などから教えられます。道ばたなどにゴミを捨てない、レストランでは自分が食べ終わった食器をできるだけきれいに整える、人が集まる場所ではまわりの人に迷惑がかからないように気配りをする。こうした清潔感へのこだわりや他者への配慮は多くの日本人が共有している精神であり、当たり前の行動です。

私自身、日本で暮らす中で日本人の常識に驚いたことが何度もあります。たとえば、私がよく通るウォーキングルートにグラウンドがあり、小学生が野球の練習をしている光景を見たことがあるのですが、彼らのバッグが壁の前に一列に並んで置かれ、完璧と言えるほど美しく整頓されていたのです。なんて素敵な文化だろうと思いましたし、こうした行動をこどもの頃から習慣化することで、日本ならではの気遣いの文化が生まれているのだと感じました。ここがアメリカだったら、もっと乱雑にバッグが置かれていたことでしょう。

日本では幼少期から、学校や家庭で整理整頓せいとんの大切を学ぶ。(左:本文記載のこどもが野球の練習の際、バッグを整列して置いている例。右:家の玄関でシューズをきちんと整えるこども)

「なぜ日本の街は清潔なのか」という問いに対して、「日本人がきれい好きだから」と答えるのは簡単です。そこから深掘りして文化的な背景を考えてみると、「シンプルなものが美しい」と考える日本の美意識が根底にあるように感じます。

日本の伝統的な紙である和紙は、職人が昔ながらの道具を使って一枚一枚丁寧にいていく(右)。「自然な風合いを持つシンプルさに、日本の美意識が感じられます。」と語るルース・マリー・ジャーマンさん。左は、さまざまな風合いの和紙の例(美濃和紙)。

たとえば、日本食の「お吸いもの」*には、四季を表現するために、透き通ったスープの中に小さな花の形をした食材が飾りとして添えられることがあります。また、日本の伝統的な和紙は、極めてシンプルな紙でありながら洗練された美しさがあります。複雑な過程、工程を経ながらも、仕上がりについてはシンプルさを追究していくことに価値を見出す日本人の美意識は、何につけ可能なかぎり整理整頓(せいとん)する「きれい好き」という精神にもつながっているように感じます。

外国から日本に来られて長く滞在、あるいは暮らしていくためには、自国と日本の文化の違いを理解することが大切です。最初は日本人の行動に疑問や驚きを感じることも多いかもしれません。そのときに自国の常識で行動するのではなく、まわりの日本人がどのような行動をしているのかを観察して、マネをしてみてください。電車やバスで移動中にゴミが出たときはゴミ箱がある場所までは持っている。靴を脱ぐ場所では自分も靴を脱ぎ、靴箱に整頓する。よく観察してマネをすることでより深く日本の文化や美意識に触れ、新しい日本の魅力を発見できると思います。

ルース・マリー・ジャーマン
アメリカ生まれ、ハワイ州育ちの実業家。1988年に株式会社リクルートに入社し、以来35年以上日本に滞在。1992年から個人事業主として翻訳と通訳のキャリアを構築。現在は株式会社ジャーマン・インターナショナルの代表取締役社長を務め、日本に関する6冊の本を出版している。また、3社の上場企業の社外取締役を務めており、外国籍のかたでは極めて珍しい宅地建物取引士の資格を所持。さらに、NHKワールドラジオの「Living in Japan」を始め、さまざまなメディアにも出演している。2024年からNHK国際放送番組審議会委員や神奈川県地方創生推進員など、日本の国際化を多方面でサポートしている。
検索:ルース・マリー・ジャーマン

* 日本料理の汁物の一つ。 かつお節、昆布などのだし汁に、魚や鳥の肉、魚肉練り製品の一種のかまぼこなどを具とし、サンショウ、ユズなど香りのある和ハーブを添えた料理。 花を模したかまぼこなどで彩りをだす。
日本料理の汁物


By Ruth Marie Jarman
Photo: Ruth Marie Jarman; PIXTA

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