VOL.195 AUGUST 2024
EXPLORE THE UNIQUE CHARM OF MANGA IN JAPAN [私が伝えたい日本(日本人インフルエンサー)]日本各地の様々な時代の庭園:奈良、平泉、福井の庭園


8世紀当時、天皇のうたげの場であった平城宮へいじょうきゅう東院とういん庭園(奈良市)
Photo: 奈良文化財研究所

小野おの健吉けんきちさん

大阪観光大学教授で、庭園史や文化遺産保全が専門の小野おの健吉けんきちさん。今月号では、小野さんに日本各地の8世紀、12世紀及び16世紀の庭園について語ってもらった。

日本庭園といえば、京都の金閣寺や龍安寺りょうあんじを思い浮かべるかたが多いかと思います。しかし、日本は各地に様々な時代の庭園がのこる世界でも稀な国です。ここでは、8世紀の奈良、12世紀の平泉、16世紀の福井の庭園を紹介したいと思います。

私たちがイメージする日本庭園のデザインは、8世紀に当時の都・平城京へいじょうきょう(現在の奈良県奈良市及び同大和郡山市)で誕生します。中国・唐の庭園の影響を受けつつ、自然風景をモチーフとした庭園が日本の風土の中で造られるのです。いま、考古学調査で発掘され復元整備された二つの当時の庭園を見ることができます。平城宮へいじょうきゅう東院とういん庭園は天皇のうたげの場として用いられた施設です。出島と入江が連続する複雑な形の池を中心に建物や橋が配置され、北岸の石組は8世紀の実物が見られます。平城京へいじょうきょう左京さきょう三条さんじょうぼうきゅうせき庭園も公的な宴のための施設です。竜をかたどった細長く蛇行する池とその護岸石組が見どころで、池は底石から護岸石まで全て8世紀の実物です。世界的に見ても稀有な1300年近く前のこの二つの庭園は、庭園に関心のあるかたには必見です。


平城京へいじょうきょう左京さきょう三条さんじょうぼうきゅうせき庭園の竜をかたどった池(奈良市)
Photo: 小野健吉

8世紀末に都となって以降、京都は庭園文化の中心となり、仏教寺院にも庭園が造られるようになります。この京都の庭園文化の影響のもと、12世紀に現在の東北地方を支配した奥州藤原氏の拠点であった平泉(現在の岩手県平泉町)で、見事な仏教寺院庭園が造られました。当時の姿をよく遺しているのが毛越寺もうつうじ庭園です。今は失われた金堂の南面に広がるのは、中央に中島を配した東西200mの大泉池おおいずみがいけです。特に見どころとなるのは、池南東部の岬と池中ちちゅう立石りっせき、池南西部の築山つきやま石組、それから池の北東で発掘され修復された池への導水路である遣水やりみずです。いずれも12世紀に造られたものがほぼそのまま遺っています。若葉や紅葉の季節は、特に庭園の美しさが際立ちます。毛越寺と隣接するかん自在じざいおういん跡の庭園や近年復元された無量むりょうこういん跡の庭園もおすすめです。


毛越寺もうつうじ庭園の大泉池おおいずみがいけ。南東にある岬と池中ちちゅう立石りっせきからの景色。(岩手県平泉町)
Photo: 小野健吉

15世紀後半から16世紀にかけての日本は内戦の時代でした。この時代、各地に割拠した武将は、文化力にも気を配り、自らの館には独自性のある庭園をしつらえました。越前国(福井県)を約100年間支配した武将である朝倉氏の拠点となったのがいちじょうだに(現在の福井市)で、その遺跡は全体的によく遺っています。朝倉あさくらやかた跡で発掘された庭園は小面積ながら、滝石組を備えた洗練されたデザインです。ほかに、力強い石組が特徴の諏訪館跡庭園や湯殿跡庭園も朝倉氏の庭園の好みを示しています。北陸新幹線が開通した福井駅でローカル電車に乗り換えて農村風景を楽しみながら一乗谷の遺跡と庭園を訪れる小旅行は、知らなかった日本の発見となることでしょう。


朝倉氏の拠点だったいちじょうだににある諏訪館跡庭園の力強い石組(福井市)
Photo: 小野健吉

小野健吉
大阪観光大学教授。奈良文化財研究所名誉研究員。博士(農学)(京都大学)。主著として「岩波日本庭園辞典」(岩波書店、2004年)、「日本庭園―空間の美の歴史」(岩波新書/岩波書店、2009年)、「日本庭園の歴史と文化」(吉川弘文館、2015年)がある。日本庭園や観光について各地で講演している。
検索:小野健吉


By ONO Kenkichi
Photo: ONO Kenkichi; Nara National Research Institute for Cultural Properties

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