VOL.195 AUGUST 2024
EXPLORE THE UNIQUE CHARM OF MANGA IN JAPAN 日本の「マンガ」を英訳する翻訳家が語る難しさと面白さ

全世界シリーズ累計発行部数*は3,500万部で人気の高い「くろ執事しつじ」。左は日本語版、右は英語版
©Yana Toboso/SQUARE ENIX

「NANA」や「くろ執事しつじ」など、日本で生まれた少女マンガを英語に翻訳している翻訳家の木村きむら 智子ともこさんに、訳する際の難しさと、日本ならではのマンガの表現の面白さを伺った。


日英翻訳家の木村智子さん。
Photo: Tomo Kimura

日本のマンガを英語に訳する翻訳家として活躍する木村きむら 智子ともこさんは、2004年に米国のビズメディア(VIZ Media)社から刊行されたマンガ「Full Moon o Sagashite」(日本語版「満月フルムーンをさがして」**)からマンガの英訳のキャリアをスタートした。以来、英訳したマンガは300冊を超える。もともと企業で翻訳経験のあった木村さんだが、マンガの翻訳を始めた頃はとまどいもあったそうだ。

「ソフトウェアの仕様書の翻訳などを業務で行っていた際は、正確さや確実性が求められました。マンガ翻訳の場合は、10人翻訳家がいれば10人それぞれ表現が変わるくらい、多様な解釈の可能性があります。どの表現が一番その作品にふさわしいかを考えることが、マンガ翻訳の特徴であり難しい部分です」

木村さんが専門としている少女マンガの表現は、とくに繊細な心模様を描く描写も多く、英語での表現には心を砕くという。

「例えば日本語では、男性の場合だと「私」「俺」「僕」といった一人称で、その人物のキャラクターが伝わりますが、英語で表現するとすべて「I」です。そのため、セリフの他の言葉にその人物が言いそうなニュアンスを入れ込み、その人らしさをセリフ全体で表現する必要があります」

日本語特有の表現を英語に変換する作業にも難しさがある。

「英語には敬語や謙譲語、丁寧語といった日本語のような表現の違いはありません。そういう意味で「Black Butler」(日本語版「くろ執事しつじ」)***のセリフ表現は難しかったです。19世紀の英国が舞台ということもあり、現代では使わない当時の言葉遣いや言い回しを取り入れて雰囲気を伝えています」

日本語版の執事の台詞のニュアンスを英語で表現しているシーン(「くろ執事しつじ」32巻112ページより)
©Yana Toboso/SQUARE ENIX

また、日本のマンガでは登場人物などの動作を表す際に、さまざまな擬音を加えて臨場感にあふれた表現をする。しかし、英語は日本語に比べて擬音のバリエーションが少ない。

「今、手がけている「Kakuriyo: Bed & Breakfast for Spirits」(日本語版「かくりよの宿飯 あやかしお宿に嫁入りします。」)****は作中でさまざまな調理のシーンが描かれています。お米を研ぐ音は、日本語では「シャカシャカ」と表現されます。英語にはない動作なので悩みましたが、かき混ぜるという意味の「shake」から母音をとって、マンガ的な見た目になるように「shk shk」と表しました。日本語の響きにも近づけるなど、工夫を凝らしています」

他にも日本特有の食材を翻訳する際には、大根を単なる「daikon」ではなく「daikon radish」と食材の姿形を連想しやすい言葉に置き換えるなど、木村さんはマンガに描かれた文化や慣習を読者に理解してもらえるように翻訳することをとても大切にしている。

「かくりよの宿飯 あやかしお宿に嫁入りします。」。左は日本語版、右は英語版。原作の小説は国内で250万部を超えるベストセラー。
©Waco Ioka 2024 ©Midori Yuma 2024 ©Laruha 2024

かき混ぜるという意味の「shake」から母音をとって、マンガ的な見た目になるように「shk shk」と表している英語版
(「かくりよの宿飯 あやかしお宿に嫁入りします。」1巻154ページより)
©Waco Ioka 2024 ©Midori Yuma 2024 ©Laruha 2024

「日本のマンガの魅力はなんといってもジャンルの幅広さ。多彩な作品ごとの魅力が伝わるように、これからも丁寧な翻訳を心がけていきたいです」


* 単一作者によるコミックシリーズの全世界での発行部数
** 「満月フルムーンをさがして」(種村たねむら 有菜ありな著)2002年集英社刊
*** Yen Pressより刊行。日本語版「くろ執事しつじ」(とぼそ やな著)は2007年からスクエア・エニックスより刊行されている人気シリーズ。
**** VIZ Mediaから刊行。日本語版「かくりよの宿飯 あやかしお宿に嫁入りします。」(原作:友麻ゆうま みどり、作画:衣丘いおか わこ、キャラクター原案:Laruha)2023年KADOKAWA刊


By MOROHASHI Kumiko
Photo: Tomo Kimura

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