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April 2023

都会の大名庭園「縮景園」

  • 濯纓池と跨虹橋(ここうきょう)越しに見える清風館(せいふうかん)
  • 濯纓池(たくえいち)
  • 濯纓池に臨む悠々亭(ゆうゆうてい)
  • 富士山を模して作られた人工の山で、庭園を眺められる迎暉峰(げいきほう)
濯纓池と跨虹橋(ここうきょう)越しに見える清風館(せいふうかん)

広島県広島市の縮景園(しゅっけいえん)は、火災と原爆の被害を受けながらも、400年にわたり存続してきた日本庭園である。

濯纓池(たくえいち)

縮景園は、広島城(参照)から東に約600メートル離れた京橋川沿いに位置する、広さ約47,000平方メートルの日本庭園である。大名である広島藩主、浅野長晟(あさの ながあきら。1586~1632年)*の別邸として1620年から作られ、400年以上の歴史を有する。大名庭園は、それまで通常、敵からの攻撃にさらされないように城の敷地の中に作られていたが、縮景園は初めて敷地の外に作られた大名庭園と言われている。庭園を設計したのは、家老として浅野家に仕え、茶人や作庭家としても知られていた上田宗箇(参照)である。当時は現在の縮景園とは異なり、木々は少なく、人工の小さな山である「築山(つきやま)」に芝生が植えられ、茶室の周辺は砂利が敷かれていた。これは、侵入者をすぐに発見できるようにとの狙いがあったと考えられている。

しかし、1758年に起きた大火災で、縮景園を含め、広島城下町の広範囲が焼き尽くされた。その後、庭園の再建のために、京都の庭師が招かれ、1783年から1788年にかけて大規模な改修が行われ、ほぼ現在の縮景園の姿となった。そして、縮景園は、1945年8月6日に投下された原爆によって再び壊滅的な被害を受けるが、1949年から約30年にわたって復旧のための工事が行われ、元の美しい姿を取り戻した。

「縮景園は岡山県の後楽園**や石川県の兼六園***など、今に残るほかの大名庭園に比べると規模はそれほど大きくありません」と縮景園の小別所智昭(こべっしょ ともあき)さんは話す。「しかし、廻遊式庭園で、起伏に富んだ敷地に、池を中心として池の中の島、所々にかかる橋、築山、竹林、茶室などが絶妙に配置されており、庭園の小ささを感じさせません」

濯纓池に臨む悠々亭(ゆうゆうてい)

庭園の中央には約8,000平方メートルの「濯纓池(たくえいち)」が配置され、縁起が良いとされる鶴と亀にちなみ、3つの鶴島と11の亀島が浮かんでいる****。これらは、広島が面する瀬戸内海とそこに浮かぶ島々を表していると言われる。池の水には、京橋川から取り込んだ水が使われている。広島湾に注ぐ河口に近い京橋川の水は、真水と海水が混ざり合っているため、池には淡水魚のコイや海水魚のボラなどの魚が一緒に泳いでいる。

池の中央には「跨虹橋(ここうきょう)」というアーチ型の石橋が架かっている。原爆の爆風にも耐え、約240年前に架けられた当時のままである。また、池の脇には「悠々亭(ゆうゆうてい)」などの休憩所「四阿(あずまや)」が設けられており、来園者は座り、庭園をゆっくりと眺めることができる。

池の脇には、富士山を模して造られたと言われている、高さ約10メートルの築山「迎暉峰(げいきほう)」の頂上からは庭園全体を見渡せる。庭園の周囲に高いビルのなかった昔は広島城、広島湾、そして宮島(参照)まで眺められた。

富士山を模して作られた人工の山で、庭園を眺められる迎暉峰(げいきほう)

庭園内には約5,600本の木が植えられている。その中でも、マツが約370本と最も本数の多い樹木である。一年を通じて青々とした葉を茂らせているマツは、庭師によって見事に剪定されている。サクラも約110本が植えられており、春になると美しい花を咲かせる。秋にはモミジなどの木々が色とりどりに紅葉する。庭園には、原爆後も生き残った、幹回り約4メートル、高さ約17メートル、樹齢200年以上と推定される大銀杏(いちょう)も立っている。

庭園では年間を通じて様々なイベントが実施される。例えば、茶室の「清風館(せいふうかん)」では、四季ごとに茶会が催される。また、かつて藩主が、園内の茶畑で茶摘み、水田で田植えを行っていた。その茶摘みと田植えがそれぞれ再現され、毎年4月下旬に「茶摘まつり」、6月中旬には「田植まつり」が開催される。

「縮景園では、四季折々、様々な花やイベントを楽しめますので、繰り返しいらっしゃる方が多いです」と小別所さんは話す。「都会の中でありながら、まるで別世界のような静けさを味わうこともできます。今後も400年受け継がれてきた伝統を受け継ぎながら、国内外の方々にその魅力を伝えていきたいです」

* 浅野長晟は広島藩浅野家の初代藩主。1619年から広島を治めた。
** Highlighting Japan 2021年5月号「岡山後楽園:魅力あふれる大名庭園」参照。 https://www.gov-online.go.jp/eng/publicity/book/hlj/html/202105/202105_04_jp.html
*** Highlighting Japan 2021年5月号「加賀藩の名園「兼六園」」参照。 https://www.gov-online.go.jp/eng/publicity/book/hlj/html/202105/202105_03_jp.html
**** それぞれの島は、ツルあるいはカメに見立てられている。