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April 2023

広島の平和記念碑「原爆ドーム」

  • 元安川沿いの原爆ドームの横を通る遊覧船
  • 広島の名所として発行された彩色絵葉書 (広島市公文書館所蔵)
  • 被爆前の原爆ドーム(広島県産業奨励館)(提供:広島平和記念資料館)
  • 原爆投下後、米軍により撮影された広島中心地と原爆ドーム(1945年11月、撮影者:米軍、提供:広島平和記念資料館)
  • 原爆ドームの保存工事(1990年) (広島市公文書館所蔵)
  • 広島平和記念資料館
元安川沿いの原爆ドームの横を通る遊覧船

1996年に世界遺産に登録された原爆ドームは、第二次世界大戦の末期に人類史上初めて使用された核兵器により、ほとんど破壊された建物だ。その建築を保存することで、核兵器の廃絶と世界の恒久平和の大切さを訴え続けている。

広島の名所として発行された彩色絵葉書 (広島市公文書館所蔵)

広島県広島市の中央を流れる元安川(もとやすがわ)に面した原爆ドームは、1945年に投下された原子爆弾(以下、原爆)による強烈な熱線とすさまじい爆風を浴びてほとんど破壊された建物である。

この建物はチェコ人の建築家ヤン・レツル(1880〜1925年)の設計により建設され、1915年4月に完成した広島県物産陳列館であった。建築面積はおよそ1,000平方メートルで、高さは約25メートル、建物の一部を鉄筋コンクリートで補強したレンガ造りであった。全体は3階建てで、地下室があり、楕円形ドームが載せられたヨーロッパ風の建物は、広島のランドマークの一つとなっていた。

被爆前の原爆ドーム(広島県産業奨励館)(提供:広島平和記念資料館)

広島県物産陳列館は広島県が県産製品の開発、品質向上、販路拡大の拠点を目的に建設され、県内外の物産展、商工業に関する相談所、美術展や講習会などの会場としても、市民に親しまれ、1933年には広島県産業奨励館と改称された。しかし、1944年以後、建物は官公庁などの事務所として使用されるようになっていた。

そして、1945年8月6日午前8時15分、一発の原爆が建物の約160メートル南東の上空600メートルで炸裂した。建物は大破、全焼し、建物の中にいた職員は全員即死したと言われている。しかし、建物は爆風を上方からほぼ垂直に受けたため、壁の厚い建物の中心部は奇跡的に倒壊を免れた。ドーム型の屋根が特徴的だった建物の残骸が傘状に残っていることから、いつしか市民から「原爆ドーム」と呼ばれるようになった。

原爆投下後、米軍により撮影された広島中心地と原爆ドーム(1945年11月、撮影者:米軍、提供:広島平和記念資料館)

被爆直後の広島は、75年間は草木も生えないといわれる程の惨状だったが、復興が進められた。被爆当時の姿をとどめる原爆ドームは原爆の被害を伝える象徴となり、広島では平和への強い願いが芽生えた。

広島平和記念資料館(コラム参照)を設計した建築家・丹下健三(たんげ けんぞう。1913〜2005年)*は、原爆ドームは二度と人類が原爆を使用しないためのシンボルとして残すべきだと主張した。しかし、その一方で倒壊の危険性があり、また悲惨な戦時下の経験を思い出したくないという思いから原爆ドームの撤去を望む声もあった。

原爆ドームの保存工事(1990年) (広島市公文書館所蔵)

1966年に至って広島市議会は当時の惨状や原爆の痕跡を後世に伝えるために原爆ドーム保存を要望する決議を行った。それを受け、広島市が保存工事のための募金運動を始めると、国内外から目標を大きく上回る金額が寄せられ、1967年に最初の保存工事が行われた。その後も数回の保存工事が行われ、原爆ドームは被爆当時の姿を今に伝えている。

1996年には、原爆ドームは世界遺産に登録され、現在の姿で永久に保存されることになった。 現在、広島を訪れる人々の多くが訪れるという原爆ドームは、核兵器廃絶と世界恒久平和の大切さを訴える平和記念碑となっている。

注記: 本記事は広島市の了解の上、同市の公表資料に基づき作成している。



広島平和記念資料館

広島平和記念資料館

原子爆弾による被害の実相をあらゆる国々の人々に伝え、ヒロシマの心である核兵器廃絶と世界恒久平和の実現に寄与するため、丹下健三による設計で1955年に開館した。原爆ドームは、戦後の広島を象徴する建物として造られた平和記念資料館から一直線に望むことができる。被爆者の遺品や被爆の惨状を示す写真や資料を展示し、核兵器の恐怖や1945年8月6日に広島で何が起こったのかを伝えている。2019年に全面リニューアル、メインコーナーの解説パネルや音声ガイドなどを多言語対応している。

〒730-0811 広島県広島市中区中島町1-2
https://hpmmuseum.jp

* Highlighting Japan 2017年11月号「丹下健三:建築界のレジェンドの遺産」参照 https://www.gov-online.go.jp/eng/publicity/book/hlj/html/201711/201711_02_jp.html