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  • ベストを編む梅村マルティナさん
  • 気仙沼の自然や生活を色にした「気仙沼カラー」。左から「桜」「海」「森」。
  • 店内にディスプレイされた毛糸の編地パターンサンプル
  • 梅村さんと店頭のシマウマのマスコット

September 2020

編み物を復興の支えに

ベストを編む梅村マルティナさん

ドイツ出身の梅村マルティナさんは、編み物の楽しさを共有することで、東北の被災地の復興を支援し、人と人との縁をつないでいる。

気仙沼の自然や生活を色にした「気仙沼カラー」。左から「桜」「海」「森」。

岩手県南部の内陸から宮城県北部の沿岸部をつなぐJR大船渡線の気仙沼駅を降りると、駅前に小さく可愛らしい店がある。店内に一歩入ると、壁一面のたくさんのカラフルな毛糸が目に飛び込んでくる。ここは、ドイツ出身の梅村マルティナさんが設立した編み物用の毛糸などを扱う会社「KFS(Kesennuma Friedenssocken)」ショップである。会社の名前はドイツ語で「平和の靴下」を意味する。

ベルリンの医学生だったマルティナさんは、1987年に研究者として初来日。群馬大学から京都大学大学院に在籍して研究を続け、京都で日本人男性と出会い結婚した。その後、子供を持ち、研究の時間を取ることが難しくなった時に、マルティナさんが、ふと思い立ったのは編み物をすることだった。「ドイツでは子供の頃、学校で靴下の編み方を教わります。私はそれがとても好きでした」とマルティナさん。「すると母国ドイツの母親が『南ドイツの実家の近くに素敵な毛糸を作っている工場がある』と教えてくれたのです。その工場の毛糸は、一色ではなく、様々な色で染められており、編むことによって様々な模様が出てくる不思議な毛糸でした。まるで魔法の毛糸でした」

マルティナさんは、早速その魔法の毛糸を製造するTUTTO社から毛糸を取り寄せて靴下を編み、当時ドイツ語を教えていた大学の同僚たちにプレゼントした。「皆、とても喜んでくれるのですが、日本人はプレゼントをすると必ずお返しをくれます。それなら代金をいただいて、それを元に何か社会の役に立つことをすれば、皆が幸せになる、と思いました」これがマルティナさんの「平和の靴下(Friedenssocken)」活動の始まりだった。その名前は、2003年にマルティナさんは編んだ靴下を京都の手づくり市で販売し、売り上げをアフガニスタンで戦災の復興支援をしていた知人に寄付するなどの活動に由来する。マルティナさんは、徐々に活動を広げていった。

店内にディスプレイされた毛糸の編地パターンサンプル

そして2011年に東日本大震災が起き、連日メディアで見る被災地の様子に居ても立っても居られなくなったマルティナさんは、義援金を京都から東北の被災地にも送った。さらに避難所生活を送る人々に、「編み物をしている時は無心でいられるから」と毛糸と編み針のセットを送った。ほどなくして被災地の気仙沼市内の避難所の一つから「毛糸をもっと送ってほしい」という声が届き、マルティナさんと気仙沼の人々との“つながり”が生まれた。

やがて、震災から1年ほど経過して、被災地の人々がやっと避難所を出て日常の生活を取り戻しつつあるという頃になると、マルティナさんは、人々が働く場所が必要だと考えるようになった。そこで2012年、「梅村マルティナ気仙沼FSアトリエ株式会社」(KFS)を気仙沼に設立。今では地元の女性たち10名の従業員が、TUTTO社の毛糸の輸入販売、マルティナさんの代名詞となった「平和の靴下」や筒状の「腹巻帽子」などを制作、販売している。

梅村さんと店頭のシマウマのマスコット

マルティナさんの活動を知ったTUTTO社から、プライベートブランドの企画を提案され、KFSオリジナルの毛糸もプロデュースしている。気仙沼の自然や生活を色にした「気仙沼カラー」シリーズや、家族一人一人をイメージした「家族の笑顔」シリーズなど、これまでKFSで開発した毛糸は100種を超えた。

その中には、TUTTO社が熱帯雨林保護活動のためにデザインしたゼブラカラーも入っている。マルティナさんお気に入りで、KFSの店先にはシマウマのマスコットが置かれている。シマウマの像は少しずつ増え、いつの間にか店先から気仙沼市内のあちこちに広がっている。マルティナさんの「編み物は人と人をつなぐ」という思いのように、シマウマたちも平和の使者として駆け巡っているようである。