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  • 「カボコーマ・ストランドロッド」を用いて、耐震補強された小松マテーレ旧本社棟
  • カボコーマの断面
  • 炭素繊維の芯の周りをガラス繊維の鞘で覆ったカボコーマの「芯鞘(しんさや)構造」
  • 軽量で持ち運びしやすいカボコーマのロール
  • 耐震補強材としてカボコーマが取り付けられた富岡3号倉庫
  • 組紐

September 2020

鉄より強くて軽く、さびない新素材

「カボコーマ・ストランドロッド」を用いて、耐震補強された小松マテーレ旧本社棟

石川県の繊維企業が、鉄よりも強度の高い新素材である炭素繊維複合材を、組紐(くみひも)という日本の伝統的技術を応用して開発した。その新素材は、高い強度とともに、鉄の約5分の1の重量しかなく、新たな耐震補強材として注目されている。

カボコーマの断面

日本で1,000年以上の歴史を持つ伝統技術に「組紐」がある。通常の織物は、経糸(たていと)と緯糸(よこいと)を交差させて作る(織る)。これに比べて、組紐は、絹糸などの繊維類を数本または数十本を束ねて一つの単位とし,これを3単位以上まとめて、斜めあるいは前後,上下に交差させて紐を作る技術である。その形状は、よく三つ編みや四つ編みの女性の髪のお下げにたとえられる。織物のように平面状の大きなものを作ることは難しいが、長い紐状のものを作るのには適している技術である。日本では、古代に中国大陸から伝わったと言われ、平安時代(794年~12世紀末)に技法が発達し、主に着物の細部の装飾に用いられ、その後、武具などの飾りとして使われ、今日に至っている。今でも日本では着物を着る際、帯の上に更に装飾(帯締め)として組紐を付けることが一般的である。

石川県の繊維企業である小松マテーレが開発した、ワイヤー状の炭素繊維複合材「カボコーマ・ストランドロッド(以下カボコーマ)」は、その組紐の技術を建築用のワイヤー作りに応用したものである。

炭素繊維の芯の周りをガラス繊維の鞘で覆ったカボコーマの「芯鞘(しんさや)構造」

「2008年頃、石川県は『県の重要な産業である繊維産業の発展のため、企業の非衣料分野への進出を推進する』という方針を打ち出しました」と同社理事・技術開発本部長代理の奥谷晃宏さんは話す。「当社もこれに応じて、繊維技術を活かし、建築分野で利用できる新たなワイヤーの開発を進めました。建築部材として使用される従来のワイヤーは重く、取扱いや輸送コストが課題となっていたので、軽量で、柔軟性があり、経年劣化に耐える製品のニーズは高いと考えたのです。そこで、伝統の「組紐」の技術を製品開発に活かすことを考えました」

そうして開発されたカボコーマは、組紐の技術を使いガラス繊維で覆った炭素繊維の線を7本より合わせ、樹脂を染み込ませてワイヤー状にしている。その最大の特徴は、「軽く、強く、さびない」ことである。鉄の5分の1の軽さで、強度は鉄の約10倍、しかも耐熱性や耐薬品性に優れている。

軽量で持ち運びしやすいカボコーマのロール

一般的に炭素繊維は引っ張る力には強いが、平行に働く力には弱い。しかし、カボコーマは、炭素繊維の芯を覆うガラス繊維を組紐状に編むことにより、強く、しかも、しなやかさを備えた作りとなっている。その太さは直径9ミリメートルであるが、約160メートルでも、12キログラムと軽量で、手で持ち運びができる。同等の強度を持つ従来のメタルワイヤーの5分の1の重さでしかない。

地震が多い日本では、このカボコーマは、特に耐震補強材として、今、注目を集めている。

同社は、2015年にカボコーマを、当時の本社棟の改修工事の耐震補強材として使用した。カボコーマは、建物の内側に筋交(すじかい)のように取り付けられているだけではなく、建物の外側でも、建物の屋根と地面とをつないでいる。約1,000本のカボコーマを、建物全体を包むように張り巡らせた斬新なデザインを手掛けたのは、世界的な建築家の隈研吾さんだった。東日本大震災の後、これからは柔軟性のある素材で建築を作る時代が来ると考えていた隈さんは、しなやかさと強度を兼ね備えたカボコーマを絶賛したという。

耐震補強材としてカボコーマが取り付けられた富岡3号倉庫

その後、善光寺経蔵(長野県)や旧富岡製糸場(群馬県)の耐震改修など、実績を積み重ね、2019年には、炭素繊維複合材料の耐震補強材として初めて日本産業規格(JIS)の制定に繋がった。

「日本には耐震基準を満たしていない木造住宅が数百万戸あるとも言われ、その耐震補強が急がれています。まずはこの分野に貢献したい」と奥谷さんは話す。「将来的には、鉄筋コンクリート建築の鋼材の役割としての用途を目指しています。鉄筋コンクリートの劣化は、コンクリートの中にある鉄筋がさびることから始まります。鉄筋の代わりにカボコーマを使えば、現在は50年と言われている鉄筋コンクリート造の寿命を100年以上まで伸ばすことも可能です。この技術で、世界中の建物の長寿命化に貢献できたらうれしいですね」

組紐