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March 2020

和紙でつながる福島と世界

ニュージーランド出身のシルヴィア・ギャラハーさんは、福島県いわき市で400年の歴史を持つ和紙の継承に取り組んでいる。

福島県いわき市遠野町では400年以上前から、地元で栽培される良質な楮(こうぞ)を使った「遠野和紙」が作られてきた。しかし、最盛期には600軒を数えた生産者は需要の減少とともに減り続け、2010年には最後の1軒が廃業した。地元のまちづくり団体である遠野町地域づくり振興協議会では、この伝統技術を未来へ継承するために和紙工房を開設し、2015年からは総務省の「地域おこし協力隊制度」を使って、地域の卒業証書や表彰状に使用されている遠野和紙生産の担い手の育成を始めている。ニュージーランド出身のシルヴィア・ギャラハーさんは、いわき市初の外国人の地域おこし協力隊員として、2019年秋からこのプロジェクトに参加している。

幼い頃から日本のアニメが好きだったというシルヴィアさんは、高校生の頃には日本のマンガや小説を原文で読むために独学で日本語を学び始め、大学では世界史を専攻する傍ら本格的に日本語を勉強した。大学卒業後は「短期間でも良いから日本に住んでみたい」と考え、外国人が日本の学校で語学指導に携わる「JETプログラム」に応募し、2017年、念願の来日を果たした。その外国語指導助手(ALT)としての勤務先が、福島県いわき市だった。福島県は2011年に起きた東日本大震災で大きな被害を受けた。

「福島の名は、高校3年時に震災の報道で知りました。大学時代には、アジア、大洋州諸国の大学生が日本に集まり交流するプログラムに参加したことがあります。その時、いわき市に近い茨城県北部で震災や復興の話を聞いた経験がありましたので、以前から福島県には関心がありました」と、シルヴィアさんは言う。ALTとしていわき市内の中学生の英語の授業をサポートする傍ら、被災地の一つである福島県北部の南相馬市へボランティアとして通ったシルヴィアさんは、地域の人たちや世界中からここに集まる人たちとの交流を通して、活動の領域を広げたいと考えるようになった。そして出会ったのが、地域おこし協力隊員として遠野和紙づくりを継承する仕事である。

シルヴィアさんが和紙づくりを選んだのは、故郷のニュージーランドで美術品の修復に日本の和紙を使用していたことに加え、何よりその素材としての美しさにひかれたからである。伝統的な製法を継承するこの工房では、原料である楮の下準備から紙すきまでの工程を経験できる。シルヴィアさんが作る和紙は町内の小中学校、高校の卒業証書に使われ、「これを手渡される子どもたちの笑顔を想像すると、とても楽しくなる」とシルヴィアさんは笑顔で話す。

もともと絵を描くのが得意だったシルヴィアさんは、南相馬市のボランティアを始めた頃から、ALTとして働く中で知り合ったイギリス人の2人の同僚と福島県の今を伝える絵本を作りたいと考えるようになったと言う。

「福島県の一部の地域では、東日本大震災と原子力発電所事故の直後に、多くの人が故郷を離れて避難しました。しかし今、復興の強い思いに満ちた人が戻ってきており、そうした人が震災を契機として生まれた国内外とのネットワークを活かし、刺激的なムーブメントを起こしています。常に何か新しいことに出会うことができる福島を、世界中の人に知ってほしいです」とシルヴィアさんは話す。

シルヴィアさんと元同僚は、イギリスでの絵本の刊行を準備中である。その本には、是非遠野和紙を使いたいと考えている。