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Highlighting JAPAN

 

 

絵文字(emoji)はどのように生まれ、世界に広がったのか?

約20年前に日本の携帯電話から生まれた絵文字は、今では世界中の人々のコミュニケーションに欠かせないものとなっている。

絵文字は、株式会社NTTドコモの携帯電話端末対応のインターネット接続サービス、iモードの開発がきっかけで1999年に誕生した。人の表情や生活上の様々なものを方眼紙12ドット×12ドットのシンプルな図案にデザインし、文字データとして用意することで、画面サイズや通信量が限られていても視覚的で円滑なコミュニケーションを可能にするのが狙いであった。開発人員と時間が限られていたため、専門のデザイナーではなく、当時iモードの開発企画者だった現・株式会社ドワンゴ取締役の栗田穣崇さんが監修を担当した。

栗田さんは、たった3人のチームで絵文字を作り上げていった開発の苦労を振り返りながら「デジタルコミュニケーションにおいて、文字のみの短文では文意の誤解が生じやすいため感情のニュアンスの付加が必要で、絵文字の登場は時代の必然でした」と分析する。

米国では、1980年代にコンピュータ科学者たちの電子掲示板では記号を用いたスマイリーマークが生まれ、日本のパソコン通信にも記号を駆使した顔文字文化があった。コミュニケーションにおいて、人は純粋な言語情報よりもそこに込められた感情情報を優先して受け取る傾向が強いため、文の最後に付けられた表情やハートのマークはポジティブな感情の印で、誤解によるディスコミュニケーションを防いでいた。これが絵文字の前身であり、栗田さんは感情以外にも乗り物、食べ物や建物など日常の物事や情報を簡略化した楽しい絵文字をいくつも生み出した。

絵文字は、当初から10代を中心に爆発的な人気を呼び、2004年頃には日本中に定着した。2009年にUnicodeへ組み込まれたことで絵文字は世界基準の汎用文字となり、2012年にスマートフォンで使用可能になると世界中へ普及が加速した。2016年より、ニューヨーク現代美術館(MoMA)にNTTドコモのiモードに搭載された初代の176種類の絵文字が収蔵されている。絵文字は、今ではiOSやAndroid、Mac OS、Windowsにも標準搭載されている。

MoMAの絵文字収蔵報道の際、栗田さんのSNSアカウントには世界中のユーザーから「あなたの絵文字で人生が変わった、ありがとう」と感謝と祝福の言葉が相次いだと言う。栗田さんは「こんなに世界中に普及するとは想像もしませんでした。日本語は漢字や仮名など使用する文字の種類が多く、文章に絵文字を混ぜて表現しても違和感がありませんが、「表音文字」を主流とする文化圏の人々には、今までに触れたことのない概念だったので新鮮で面白かったのではないでしょうか。海外では、最初はパズルや暗号のように絵文字だけを並べて使われていたと聞いています。しかし、日本でも海外でも絵文字の使い方や愛され方には結果的に差異はなく、絵文字は普遍的なものだと思います」と話す。

Unicodeの絵文字は、現在3000字近くまで追加された。「絵文字誕生から約20年。画面や字数などに制約のあるコミュニケーションが存在する限り、絵文字は残るだろうし、音声入力などの別のコミュニケーションが主流になれば、絵文字も変わるかもしれません」と栗田さんは予測する。

*Unicode:世界中の文字表現に対応するために欧米を中心に提唱、制定された文字コードの共通規格。