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Highlighting JAPAN

 

アイルランド文化を日本へ

起業家のアラン・フィッシャーさんは、自身のレストランでアイルランド文化への情熱を日本の人々に発信している。

東京の戸越銀座商店街にあるレストラン「巨人のシチューハウス」に一歩足を踏み入れると、壁に並んだアイルランド文化を称える飾り付けが目に飛び込んでくる。注文のため席に着くと、スタッフがメニューと一緒に壁の飾りを2カ国語で説明する1冊のフォルダーを持ってきてくれる。

「巨人のシチューハウス」はレストランでもあり、オーナーのアラン・フィッシャーさんの使命を果たすための本拠地である。この身長2メートルのアイルランド人は、日本の人々とアイルランドやその文化とを結びつける手助けとなればと思い、この仕事を始めたと話す。「日本ではアイルランド文化に関する情報が本当に少ない。だから私はアイルランドに関する何かをしたいと思いました」

フィッシャーさんがレストランを始めたきっかけは偶然なものだった。彼は、アイルランド政府が取り組むFAS海外スポンサーシッププログラムの一環で2008年に来日した。このプログラムはアイルランドの大学卒業生の日本や中国の企業への就職を支援していた。フィッシャーさんは、英語が母国語でない国で働き、これまでとは異なる人生を経験したいと強く希望していた。父親から日本の文化や歴史について聞いていたためすでに彼は幼い頃から日本に興味を持っていた。

商業とマーケティング分野の修士号を持つフィッシャーさんは、日本の大手ソフトウェア会社の海外販売担当として、日本のエンジニアと海外の顧客との調整に6年間携わった。「私にとっては、国際的な経験を積む良い機会でしたが、ストレスも多かったです」とフィッシャーさんは話す。

その後彼は2014年に同社を退社し、自分が進む道について考えた。「料理とアイルランド文化を分かち合うことが大好きなので、それらに関して何かできることがあるのではないかと思いました。自分の情熱を仕事に生かしたいと思ったのです」と彼は話す。

こうして生まれたのが「巨人」ブランドのコンセプトで、その第一歩として2014年にレストランを開くことにした。東京中の様々な場所を探した結果、フィッシャーさん夫妻は戸越銀座商店街の親しみやすい環境に魅了され、そこで「巨人のシチューハウス」を始めた。「料理をきっかけにアイルランド文化を共有してもらうというアイデアでした」と彼は言う。「日本には日本人の経営するアイリッシュパブがたくさんありますが、本場の料理を提供しているところはないと思います」と説明する。

この料理に関するニッチな隙間を埋めるべく、フィッシャーさんは伝統的なアイルランドのスープやシチュー、パンをメニューにすることに決め、慣れ親しんだ好物でもある母親のレシピから始めた。「最初の6ヶ月間は、毎週母親のレシピを練習することに費やしました。最後には、妻はシチューにうんざりしていたと思います」日本に呼び寄せた母親も、フィッシャーさんの上達ぶりを確認した。

それから3年半ほど経ち、フィッシャーさんはレストラン経営を軌道に乗せ、すでに次の段階に取り組んでいる。アイルランドのおとぎ話を日本語と英語で紹介する本の出版やビールやチーズなどの高品質なアイルランド製品の輸入事業である。

フィッシャーさんは、「休みは一切ありません。これまでの人生の中で一番大変な仕事ですが、情熱があるので、成功するか死ぬまでやり続けるかしかないのです」と笑いながら話す。

このアイルランドの「巨人」は、一杯のシチューとおとぎ話で、故郷と日本を結びつけようとしている。