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Highlighting JAPAN

 

渓谷と山あいを縫ってのんびりと

渡良瀬川の渓谷に沿って進むわたらせ渓谷鐵道は、のんびり走るトロッコ列車の車窓から自然豊かな大パノラマを臨むことができる、まさに動く劇場である。

わたらせ渓谷鐵道の旅は、東京駅から新幹線と在来線を乗り継いで約2時間弱の距離にある群馬県の桐生駅から始まる。桐生駅から栃木県日光市の間藤駅までの44.1kmは、その名の通り渡良瀬川の渓谷に沿うルートである。約1時間半かけてのんびり走る車中からは、様々な美しい風景を臨むことができる。

ダイナミックな渓谷美ときらめく緑のトンネル、四季折々の花、そして爽やかな風を直に感じるのならば、なんといっても窓ガラスのないトロッコ列車がおすすめである。わたらせ渓谷鐵道では、現在2種類のトロッコ列車が走っている。4月〜11月の土曜・休日に運行する「トロッコわたらせ渓谷号」は、トロッコと普通車両の計4両をディーゼル機関車が牽引する。ガタンゴトンと音を立てて走る昔ながらの姿は、路線上の数々のレトロな駅舎と見事にマッチしている。冬季は窓ガラスを取り付けて通年運行する「トロッコわっしー号」(土曜・休日、例外あり)は、2014年に登場した冬季も楽しめる新型車両で、子供優先の模擬運転台や、英語での行き先表示など、「トロッコわたらせ渓谷号」にはないサービスが導入されている。いずれのトロッコ列車も、車掌による見どころアナウンス(日本語のみ)や、弁当販売、また、わたらせ渓谷鐵道のキャラクター「わ鐵のわっしー」のオリジナルグッズ販売が行われている。

沿線には思わず途中下車したくなる個性的な駅が多く存在する。桐生駅から4駅、トロッコわっしー号で2駅目の大間々(おおまま)駅は、木造のレトロな駅舎。大正から昭和初期の風情を残している隣の上神梅(かみかんばい)駅(トロッコ列車は通過)は、大正元年に建てられた駅舎とプラットホームが国の登録有形文化財になっている。さらに普通列車で2駅進むと、駅舎と温泉が一体となった水沼駅がある。渓谷を眺めながら露天風呂に入るのもまさに日本ならではの体験だろう。

桐生駅から普通列車で11駅目の神戸(ごうど)駅は、山あいにある木造の駅で、ここには引退した電車の車体を利用したレストランがある。食堂車の風情を感じながら食事を楽しむことができる。隣の沢入(そうり)駅までは全長5242mという沿線最長のトンネルが待っている。トロッコ車両ではこの間約10分、イルミネーションで乗客を楽しませてくれる。一転宇宙空間のような雰囲気になるが、トンネルを抜けた後に見える渡良瀬川と小さな町が、再び郷愁を取り戻してくれることだろう。

下車して外から列車を眺めてみると、わたらせ渓谷鐵道がいかに雄大な自然の中を駆け抜けているかが分かる。車窓から次々と目の前に飛び込んで来る迫力満点の世界を肌で感じてほしい。このトロッコ列車は、古き良き時代の日本を感じながら、美しい峡谷を体験する最も楽しい方法の一つかもしれない。