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Highlighting JAPAN

 

 

『睡眠力』向上のためのプログラム

良質な睡眠は明日への活力源となるが、近年は睡眠の問題を抱えた人が少なくない。そんな中、スマホアプリやウェアラブルデバイスを活用し、睡眠の可視化や生活習慣の改善をサポートする睡眠力向上プログラムが開発された。

近年、先進国における社会的な課題の一つとして「睡眠」が指摘されている。睡眠不足が健康にもたらす影響は深刻である。帝人株式会社によると、睡眠不足の人はそうでない人に比べて糖尿病有病率が2.5倍、肥満比率1.7倍と高く、認知症やうつ病の発症と睡眠不足の関連を示すデータもある。さらに、アメリカの研究機関が行った調査によれば、睡眠不足による経済損失額はアメリカで年間47兆円、日本で同15兆円にも上るという。

こうした課題への対策として、帝人は「Sleep Styles ® 睡眠力向上プログラム」を開発し、2018年4月より法人向けの販売を開始した。「睡眠は健康、経済の問題でもありますし、企業にとっては事故リスクや生産性にも関係する重大な課題です。従業員の健康管理を経営的視点から戦略的に実践し企業価値を高めたいという企業のニーズが高まっていることから、このようなプログラム開発に至りました」と、帝人株式会社デジタルヘルス事業推進班班長の濱崎洋一郎さんは開発の背景を語る。

「Sleep Styles」は、生活習慣を改善することで『睡眠力』を高める8週間のプログラムである。まずはスマホ上のアンケートで自分の睡眠傾向を把握するところから始まる。そこで分類された睡眠タイプごとに最適な「睡眠力向上メソッド」を実践し、アプリを活用した生活習慣の定着化にステップアップするものである。また、睡眠力向上の意義をよく理解して取り組めるよう、睡眠の大切さを学ぶオンライン学習も用意されている。

睡眠タイプは、「良好」「生活リズム不調型」「睡眠効率低下型」「緊張型」「無呼吸リスク」の5種類。休日に寝だめをするなど、睡眠習慣が不規則になっている「生活リズム不調型」や、ベッドにいる時間は確保できても、なかなか眠れない「睡眠効率低下型」と分類された場合は、同社が独自に開発した睡眠コーチングアプリで毎日の睡眠時間や生活リズムを記録することで自分の睡眠を可視化し、生活習慣の改善に役立てる。「無呼吸リスク」の場合は、オプションで産業医の管理の下で簡易スクリーニング検査を受けることができる。

仕事の緊張・ストレスからなかなか寝付けない「緊張型」では、ウェアラブルデバイス「ツーブリーズ」を用いて自然なリラックスを身につけ、安眠に導く。ツーブリーズは腹部に巻いたバンドで、呼吸のリズムをキャッチし、連動するスマホアプリが呼吸リズムに合わせてガイド音を鳴らす仕組みである。ガイド音が徐々にゆったりとした呼吸リズムを促し、リラックスした状態で入眠に導く。

帝人が自社の従業員に対して行ったパイロット実証試験では、プログラムを最後まで継続した従業員は睡眠時間の増加、入眠までの時間の短縮、睡眠効率(布団に入っている時間のうちの眠っている割合)の向上が見られた。また、ストレスチェック項目でも、職場での創造性発揮につながる項目が有意に改善した。

「今後に向けて睡眠時の状態を計測するデバイスなども開発中ですが、まずは自分の睡眠について知ることで個人レベルでの睡眠の質を高められればと考えています」と濱崎さんは展望を語る。 『睡眠力向上』がきっかけとなって、生活習慣病の予防や生産性の向上など、好循環の生まれることが期待される。