VOL.192 MAY 2024
JAPAN’S HEALING FORESTS (PART 1) 森に抱かれた世界文化遺産「熊野古道」の散策


「熊野三山」と呼ばれる三つの霊場へつながる参詣道。写真のモデルは、中世の身分の高い女性の旅の衣装を身に着けている。


熊野古道沿いの山林の様子。道中には熊野三山の御子神をまつる「王子(おうじ)」と呼ばれる神社が数多く点在している。Photo: 世界遺産熊野本宮館

日本の本州の中央部よりやや西寄りで、太平洋に突出した日本最大の半島が紀伊半島だ。その紀伊半島には「熊野古道(こどう)」という古くからの街道が残っており、その一部は、世界でも珍しい「道」が世界遺産に登録されている*。今年(2024年)は、それらを含んだ「紀伊山地の霊場と参詣道」がユネスコの世界文化遺産に登録されてから20周年を迎える。紀伊山地の森に抱かれた「熊野古道」について紹介する。

紀伊半島の大半を占めるのは山地で、紀伊山地(きいさんち)と呼び、三つの県(三重県、奈良県及び和歌山県)をまたいでいる。標高1,000mから2,000m級の山脈が東西あるいは南北に走り、温暖で雨が非常に多い気候が特徴で、豊かな森林がはぐくまれてきた。その東南よりに、三つの神社と二つのお寺を中核とする「熊野三山(くまのさんざん)」と呼ばれる霊場があり、古くから人々の信仰を集め、世界文化遺産の構成資産ともなっている。三山の一つ、熊野本宮大社(和歌山県田辺市)の近くには、観光情報や地域情報を発信する施設「世界遺産 熊野本宮館」が設けられている。その施設の須川亜紀(すがわ あき)さんに話を聴いた。

「紀伊山地の大自然に囲まれた熊野三山を中心とする地域、いわゆる〝熊野″の一帯は、古来から神々を祀る聖地として崇められてきました。さらに10世紀から11世紀以降になると、当時の上皇や法皇、貴族たちが熊野詣(もうで)と称して幾度となく訪れました。そのため、道も整備されていったと思います。「熊野本宮大社(くまのほんぐうたいしゃ)」「熊野速玉大社(くまのはやたまたいしゃ)」「熊野那智大社(くまのなちたいしゃ)」の三つの神社と二つのお寺**の総称である「熊野三山」と、伊勢や大阪・和歌山、高野山及び吉野山***とを結ぶ古い街道の総称が〝熊野古道″です。紀伊半島全体では全長1000㎞にも上るとも言われていますが、特に文化的に価値の高いその一部が世界文化遺産に登録されており、その距離の合計は約350㎞です」

世界文化遺産に登録された熊野古道は、伊勢神宮****や熊野三山などの霊場を結ぶ巡礼の道。「伊勢路」や「熊野参詣道」である「小辺路(こへち)」「中辺路(なかへち)」「大辺路(おおへち)」など七つほどのルートがあるが、森林を楽しみたい人には、特に「小辺路」と「中辺路」がおすすめだ。小辺路は高野山と熊野三山を結ぶ参詣道で、中辺路は熊野三山への最も主要な参詣道であり、熊野三山相互を結んでいる。

「中辺路ルートは、植林されたスギ林やヒノキ林が多いのが特徴です。人工林で間伐などの手入れも行き届いた美しい林の中を歩いていただけます。年間を通して雨量も多いため、珍しいシダ植物なども豊富です」と須川さんは語る。

 

「中辺路(なかへち)」ルート

現在の田辺市(和歌山県)から本宮、新宮、那智に至る山岳路である「中辺路(なかへち)」ルート Photo: 世界遺産熊野本宮館

初夏から夏にかけた森の散策は格別なものだという。

「熊野古道の森の中は比較的涼しく、紫外線量が平地の日向の50分の1ですので、夏でも安心して歩けます。初夏の森はシダ植物などの新芽や草花も豊富で、見所もたくさんあると思います」


熊野古道沿いの「道湯川(どうゆかわ)」からの景色 Photo: 世界遺産熊野本宮館

特に癒しのスポットとしておすすめなのが、中辺路ルートの一部「発心門王子(ほっしんもんおうじ)ー熊野本宮大社のコース」途中にある、間伐材を利用した森のベッド。

「横になっていただくと、静寂な中に熊野の森の息吹を感じていただけます」


間伐材を利用して造られた森のベッド Photo: 世界遺産熊野本宮館

海外からの来訪者に人気が高いのは、歩きやすい約38kmの「中辺路ルート:滝尻王子(たきじりおうじ)ー熊野本宮大社コース」。

「1泊2日または、2泊3日と、ゆっくり時間をかけて巡っていただくコースです。滝尻王子は熊野三山の神域の入口とされ、ここから本格的な山道に入ります。森林の景観の素晴らしさは言うまでもないですが、時折山間の集落の中を歩いたりするので、日本の原風景に触れるような体験ができることも、海外のかたから人気が高い理由です。ぜひ熊野を訪れた際には実際に歩いてみていただきたいですね。今年は世界文化遺産登録20周年を迎え、様々なイベントも開催されます。多くの方々の来訪をお待ちしています」


中辺路ルートのうち、「滝尻王子(たきじりおうじ)ー熊野本宮大社コース」から見える景色の一例 Photo: 世界遺産熊野本宮館


* 道の世界遺産は日本の「紀伊山地の霊場と参詣道」、フランスとスペインの「サンティアゴ・デ・コンポステーラ巡礼路」の計3箇所が認定されている。
** 三つの神社のほか、熊野那智大社近くの二つの寺「青岸渡寺(せいがんとじ)」及び「補陀洛山寺(ふだらくさんじ)」を指す。
*** 吉野山は世界文化遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」の構成資産の一つで山岳信仰と修験道(しゅげんどう)の聖地。また、高野山には同じく構成資産である金剛峯寺(こんごうぶじ)等がある。
**** 日本の三重県伊勢市にある神社。正式名称は「神宮」(じんぐう)と称する。天照大御神をお祀りする皇大神宮(内宮)と、衣食住を始め産業の守り神である豊受大御神をお祀りする豊受大神宮(外宮)を始め、14所の別宮等125の宮社がある。これらを総称して神宮と言う。


By Morohashi Kumiko
Photo: Kumano Hongu Heritage Center; PIXTA

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