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August 2022

日本のタケの特徴と多様な利用

  • 柴田昌三・京都大学教授
  • 竹とんぼは両掌で軸をすり合わせて、羽根を回転させ、投げ上げて飛ばす。
  • 成長と共に落ちるタケの皮
  • 正月飾りとして一般的な、松とタケ等を配した門松
  • ササの葉に包まれた笹団子
  • 茶碗の中で、湯と抹茶が茶筅(ちゃせん)で混ぜられる。
柴田昌三・京都大学教授

竹文化振興協会理事長を務める京都大学教授の柴田昌三さんに日本のタケの特徴やその様々な利用について話を伺った。

成長と共に落ちるタケの皮

日本には何種類くらいのタケが生育しているのでしょうか。また、その特徴を教えてください。

タケの種類は世界で1200以上と推定されていますが、そのうち日本には約250種類が生育しています。日本のタケは主に、ササとタケに分けられます。ササとタケは、その高さと、「稈」(かん)と呼ばれる茎に付いている竹の皮でおおよそ見分けることができます。ササの高さは0.5~4メートル、成長しても竹の皮が稈にずっと付いています。一方、タケは大きいものは20メートル近くにもなりますが、稈に付いている竹の皮は成長と共に落ちます。

日本でよく見られるタケは主に、モウソウチク、マダケ、ハチクです。モウソクチクは約500年前に中国から持ち込まれました。春の味覚として知られるタケノコ(こちら参照)の多くはモウソクチクです。マダケとハチクは有史以前から日本に自生していたと考えられています。古くから、道具、飾り、建物など様々なものの材料として利用されてきました。

タケの特徴は、稈が節で区切られており、節と節との間が中空になっていることです。また、タケは成長が非常に早く、1日で約120センチメートル伸びた記録もあります。そして、「地下茎」と呼ばれる茎を、根のように、地中に伸ばすのもタケの特徴です。地下茎は、地下数十センチメートルの深さで水平方向に伸びていきます。その地下茎から毎年、タケノコが出て、それらが新たな稈に成長します。竹林のタケは一本一本、別々に生えているように見えますが、実際はその多くが同じ地下茎から成長したものなのです。

日本人はいつ頃からタケを利用し始めたのでしょうか。

いつ頃からかは明確には分かりませんが、縄文時代晩期(約3200〜2900年前頃)の遺跡から、ササを材料とした籠(かご)に漆を塗った籃胎(らんたい)漆器*が出土していますので、遅くともこの時代には使われていたと考えられます。

日本人とタケとのつながりは、古い書物からもうかがい知ることができます。8世紀初頭に編纂された古事記には、神様であるイザナギノミコトが、身に付けていた竹櫛の歯を折って投げると、それが食べられるタケノコになるという神話が出てきます。このことから、当時は既にタケが装身具として用いられていたことや、食用であったことがわかります。

また、日本最古の物語で、平安時代(8世紀末〜12世紀末)の前期に書かれたと考えられている「竹取物語」は、タケの中から見つかったかぐや姫という女性をめぐる物語です。この物語の冒頭では、かぐや姫を見つける竹取の翁(おきな)という老人について「野山にまじりて竹を取りつつ、よろづの事につかいひけり」(野山で竹を取り、いろいろな事に使っている)と紹介されています。つまり、平安時代には、野山でタケを取って生活していた人がいたことが想像できます。

日本人がタケをどのようにして使ってきたか教えてください。

日本人は、タケを様々な目的で利用してきました。タケは常緑樹なので冬でも稈や葉が緑です。そこに人々は永続性を感じ、タケを神聖な植物と考えるようになりました。そうしたことから、タケは年中行事や儀式の飾りとして使われています。最も知られる例は門松(かどまつ)です。門松は正月に家などの建物の門や入口に置かれる飾りで、タケと、同じく常緑樹のマツで主に作られています。正月にそれぞれの家にやってくると言われる神様を招くための目印として置かれます。

正月飾りとして一般的な、松とタケ等を配した門松

また、日本では土木工事を始める前、工事を行う敷地内で、土地の守り神に工事の安全を祈願する「地鎮祭」という儀式がしばしば行われます。その際、4本のタケを立てて四角く囲った場所の中に祭壇を設置します。これには、神聖な植物であるタケによって聖域を作り、そこに神様を招く意味があります。

タケは軽くて割けやすく、柔軟性にも優れており、曲げても簡単には折れません。こうした特徴を活かして、様々なものの材料として使われています。例えば、昔であれば、矢や弓などの武具、今でもみかけますが、籠(かご)、笊(ざる)、箒(ほうき)、傘、箸(はし)などの日用品、釣竿などの漁具、家の建材などです。また、タケの葉や稈に付いた皮には抗菌性があり、おにぎりや団子などの食べ物を包むのに利用されることもあります。

ササの葉に包まれた笹団子

日本文化の中でタケとの関わりが深いのが茶道です。茶室の建材や茶道具など、あらゆるものにタケが使われています。私がユニークだと思う道具は、茶碗の中で湯と抹茶を混ぜるために使う茶筅(ちゃせん)**です。茶筅はマダケあるいはハチクを細く裂いて作られます。その斬新なデザインは、タケだからこそ可能だったと思います。

茶碗の中で、湯と抹茶が茶筅(ちゃせん)で混ぜられる。

日本では竹林はどのように利用されてきたでしょうか。

タケは防災にも役立っています。タケの地下茎は地中に張り巡らされますので、土壌をしっかりと固定します。西洋の土木技術が広がる明治時代(1868〜1912年)以前は、タケが溜池や河川の護岸に植栽されました。また、古くから、地震の時には竹林に逃げ込むのが良いと各地で言い伝えられてきました。これは、竹林は地下茎によって地盤が崩れにくくなっているからです。

このように、タケは材料として利用するだけでなく、竹林自体がとても有用なので、人々が住む近くには竹林がありました。しかし、1960年代以降、プラスチック製品の普及などの要因でタケの需要は減少していきます。また、都市化が進み、誰にも利用されない竹林が増えています。

竹林は、人が定期的にタケを伐採することでタケの本数を増やしすぎないことが大切です。私は竹林での理想的なタケの密度を「傘をさした人が、タケに傘が触れることなく歩ける程度」と表現しています。そのぐらいの密度ですと、竹林の中に十分な日光が差し込み、タケが元気に育ちます。そうすれば、竹林は、美味しいタケノコ、工芸品や建築の材料に適したタケの供給源となります。また、若い地下茎がしっかりと張り巡らされることで、防災機能も高まります。

近年、持続可能な開発目標(SDGs)やプラスチックごみに対する人々の関心が高まる中、持続可能な資源としてタケにも注目が集まりつつあります。自治体やNPOが市民とともに、放置されていた竹林の管理・利用を行ったり、企業が新たな竹の有効な利用方法を開発するといった動きもあります。

現代において、従来とは異なったタケの使い方には、どのようなものがあるでしょうか。

様々な企業が、タケの粉末や繊維、あるいは、エキスを利用した製品を作っています。例えば、タケは豊富な食物繊維があることから、その粉末を混ぜたパスタやパンなどの食品があります。また、タケの繊維を使ったタオルも作られています。吸水性、防臭性にも優れ、肌触りも良いです。この他、竹炭を焼く時に出る水蒸気や煙を冷却して採取する竹酢液(ちくさくえき)は農作物の害虫避けや洗剤として使われています。

最先端の素材としては、タケから製造するセルロースナノファイバー(CNF)***があります。CNFは植物の主な成分であるセルロースをナノメートルサイズ(1ナノメートルは10億分の1メートル)まで微細化した繊維です。CNFは強度があり、軽く、熱による変形も少ないという特徴があります。建築物や人工衛星部品などの材料となるCNFを、タケから製造する研究開発が進められています。

タケは非常に優れた素材です。今後、もっと多くの人にタケの良さが知られるようになれば、新たな使い方がさらに考案されていくでしょう。

新型コロナウイルス収束後となりますが、海外から来日される外国の方々に、どのような日本のタケを見てほしいとお考えでしょうか。

是非、見てほしいのは、京都の嵐山(こちら参照)などの竹林です。人によってしっかりと管理されている竹林は、とても美しい景色を見せてくれます。実は、タケは熱帯や亜熱帯で生育する種類が多く、耐寒性のあるものは種類が少ないのです。日本を含む東アジア、ヒマラヤやアンデスなどの山岳地帯でしか見ることができません。海外では、タケは暑い地域の植物というイメージを持っている方も多いと思います。そうした方には特に、雪の白と竹林の緑とが生み出す冬の景色が、強い印象を与えるのではないでしょうか。

また、竹細工を作る体験も楽しいと思います。日本の竹細工の産地として最も有名な場所の一つが大分県別府市****です。別府市には、竹細工を学べる学校のほか、竹細工作りを体験できる工房もあります。

海外で開催されたタケに関する国際会議で、日本の伝統的な竹製玩具「竹とんぼ」が配られたことがあります。竹とんぼは、竹をプロペラ状に削った羽根に細い軸をつけたものです。軸を両掌の間で挟み、こすりあわせて羽根を回転させて、投げ上げ、飛ばします。この竹とんぼが会議の参加者に大好評で、皆さん夢中になって飛ばしていました。

竹とんぼは両掌で軸をすり合わせて、羽根を回転させ、投げ上げて飛ばす。

タケの持つ様々な魅力や可能性を、これからも国内外の人に知らせていきたいです。

* Highlighting Japan 2022年5月号「縄文時代の赤い漆器」参照 https://www.gov-online.go.jp/eng/publicity/book/hlj/html/202205/202205_04_jp.html
** Highlighting Japan 2016年7月号「茶筌の道」参照 https://www.gov-online.go.jp/eng/publicity/book/hlj/html/201607/201607_12_jp.html
*** Highlighting Japan 2016年9月号「鋼鉄より強く、軽いセルロースナノファイバー」参照 https://www.gov-online.go.jp/eng/publicity/book/hlj/html/201609/201609_09_jp.html
**** Highlighting Japan 2016年10月号「温泉地の竹細工」参照 https://www.gov-online.go.jp/eng/publicity/book/hlj/html/201610/201610_12_jp.html