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August 2022

洗練された京たけのこ料理

  • 錦水亭のコースメニューで提供されるたけのこ料理
  • 長岡京市の八条ケ池のほとりにある「錦水亭」。タケノコの季節にはつつじが咲く。
  • 地中から穂先を出すタケノコ
  • 竹林と採れたてのタケノコ
  • タケノコの輪切りを炊いた“じきたけ”
  • タケノコを薄く切った“お造り”
  • タケノコを蒸し焼きした“焼竹(やきたけ)”
錦水亭のコースメニューで提供されるたけのこ料理

京都府の西部、1200年ほど前に、一時、都(みやこ)がおかれた*地の一部、長岡京市で日本料理を供する錦水亭(きんすいてい)は、自ら育てたタケノコで独自の料理を提供している。

長岡京市の八条ケ池のほとりにある「錦水亭」。タケノコの季節にはつつじが咲く。

竹の根に当たる地下茎から出てくる若い芽を「タケノコ」と呼び、食べることができる。春になると、竹林のある地上で、土から頭を出すくらいが食べごろになり、日本人にとって春の訪れを感じさせる代表的な食材だ。煮物、吸い物、天ぷらなど、さまざまなタケノコの料理が親しまれている。

3月下旬から5月中旬ごろ、おもに京都府長岡京市を中心とするエリアで採れるタケノコは“京たけのこ”と呼ばれ、高級食材として知られる。1881年、長岡京市の長岡天満宮に隣接する八条ケ池のほとりに創業し、季節の京料理を提供している料亭・錦水亭は、食材となるタケノコの栽培から手掛けている。

「“京たけのこ”の魅力は、繊細な甘い香りとやわらかい食感です。ただし、そのおいしさはダケノコが土中にある短い間のもの。タケノコは光と空気を浴びると急速に生長し、身は固くなり、えぐみ**が増し、香りも悪くなっていくからです」と言う錦水亭の5代目当主、池田久史(いけだ ひさし)さんは話す。

地中から穂先を出すタケノコ

「そこで我々は地面のかすかなひびを見つけ、穂先が地上に出る前の若いタケノコを土中から掘り出します」

タケノコは生長すると外皮が硬く、黒くなる。しかし、まだ地上に出ていない若いタケノコの外皮は、淡い茶色からクリーム色で、生長したタケノコと違って柔らかく、ほとんどえぐみがない。そんな食材に適した上質なタケノコを収穫するためには、1年間を通しての竹林の手入れが欠かせない。錦水亭の所在地である京都西山エリアでは、夏には施肥***(せひ)や親竹の伐採、秋から冬にかけては竹林一面にワラと盛り土をし、タケノコの育成に適したやわらかい土の層を作る、そんな独自の伝統的な栽培方法が受け継がれている。こうした他の地域では見られない独特の栽培方法が、“京たけのこ”を高級食材たらしめる所以(ゆえん)となっている。

竹林と採れたてのタケノコ

タケノコのシーズンになると、早朝、池田さんは親戚と2人で竹林に入り、タケノコを掘る。掘ったタケノコは、すぐに沸騰した湯に入れて、2時間しっかり茹(ゆ)でる。茹であがったらすぐ冷たい湧き水に30分から1時間ほど晒(さら)して下処理は完了。朝掘ったタケノコが、その日のうちに料理として提供される。

3月下旬から5月にかけて、錦水亭では朝掘りタケノコを主役にしたコース料理を提供している。なかでも4月から5月中旬の最盛期にしか味わえない看板料理が“じきたけ”と“お造り”だ。

“じきたけ”は、タケノコの輪切りを特製の出し汁(だしじる)で炊(た)き(煮て)****、最後に削ったかつお節(煮て、燻して、発酵させたカツオを削ったもの)を入れて仕上げる。見た目は豪快だが、とてもやわらかく、“京たけのこ”の優美な風味がよく分かる。“お造り(刺身)”は、穂先などの特にやわらかい部分を、魚のお造りのように切り身にして、小鉢に美しく盛り付けた料理で、特製の出汁醤油(だしじょうゆ)を少しずつつけていただく。

タケノコの輪切りを炊いた“じきたけ”
タケノコを薄く切った“お造り”

また、“焼竹(やきたけ)”は、醤油ベースの特製たれをかけて、直火で表面に焦げ目をつけて、焼きあげた料理。仕上げにタケノコの皮に包んで蒸し焼きにすることで、香りが増す。

タケノコを蒸し焼きした“焼竹(やきたけ)”

「“京たけのこ”のコース料理を味わっていただいたお客様からは、タケノコのやわらかさ、香ばしい甘い香りのよさに驚いたという声をよく聞きます」と池田さんは話す。

錦水亭では、“京たけのこ”を生む竹林を守り、このような京都伝統の食文化を後世に残すことを目指している。

* 794年に現在の京都に遷都する前の都で、784年から「長岡京」という都が置かれた(現在の京都府向日市、長岡京市、京都市西京区に当たる)。
** たけのこや山菜等に多く含まれる灰汁(アク)が原因で感じる、苦さや、不快な苦い味
*** 肥料を与えること
**** 関西地方(特に京料理)では、ひたひたのお出汁や煮汁で具材をじっくりと過熱し、その旨味を具材に含ませる調理法を「炊く」と表現し、「煮る」と使い分ける。