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June 2022

日本茶の魅力を世界へ発信

  • 東京・日本橋の抹茶カフェでのブレケルさん
  • 外国人のグループに日本茶の質の見分け方を説明しているブレケルさん(2018年)
  • 静岡県清水市の有機栽培をしている茶園を訪問中のブレケル・オスカルさん
  • 茶葉の新芽を観察しているブレケルさん(京都府宇治市白川)
  • ブレケルさんの著書「A Beginner’s Guide to Japanese Tea」(2021年発行)
  • ブレケルさんの著書「A Beginner’s Guide to Japanese Tea」のフランス語版「Le Guide du thé Japonais」(2021年発行)
静岡県清水市の有機栽培をしている茶園を訪問中のブレケル・オスカルさん

スウェーデン出身のブレケル・オスカルさんは「日本茶インストラクター」の資格を持ち、東京を拠点に日本茶を普及する活動をしている。

東京・日本橋の抹茶カフェでのブレケルさん

「2022年度産の日本茶の品質はとても良いと思いますよ。ぜひ、試してみてください」と目を輝かせて話すのは、スウェーデン出身のブレケル・オスカルさん。ブレケルさんは、日本人でも合格するのが難しい「日本茶インストラクター」の資格*を持ち、東京を拠点に、日本茶の魅力を伝える活動を続けている。

ブレケルさんは、高校生のときに学んだ世界史で日本に興味を持ち、日本文化に関する本を読むようになった。中でも興味をひかれたのが、特別な空間と作法で客をもてなす茶道。

「日本を代表するほどの茶道文化のもととなった日本茶とは、どのような味わいなのだろう」と思ったブレケルさんは、日本の煎茶を紅茶専門店で見つけて購入し、飲んでみた。その第一印象は「渋くて苦い」。ところが4、5回飲むうちに、森林のような爽やかな香りを放つ日本茶の魅力に気づくようになった。

外国人のグループに日本茶の質の見分け方を説明しているブレケルさん(2018年)

「不思議と体の中が清々しくなるような感じがして穏やかな気持ちになる。それからは日本茶を毎日飲みたいと思うようになりました」とブレケルさん。

大学では哲学科に進学したブレケルさんだが、まずは日本語を学ぼうと日本語学科に転科、2010年に岐阜大学への留学の機会を得た。

その際、東京に行って、巡った日本茶カフェの一つで、ブレケルさんは特別なお茶との運命的な出会いを果たした。

茶葉の新芽を観察しているブレケルさん(京都府宇治市白川)

「それは、静岡県静岡市の、標高800メートルほどの山あいの傾斜地にある茶園『東頭(とうべっとう) 』のお茶でした。一口飲むとその山間地の風景が鮮明なイメージとして広がる。その後、深い余韻が続くのです」

その店には、ブレンド茶だけでなく、日本各地の単一産地・単一品種の個性的な茶が取り揃えられていて、ブレケルさんは日本茶の本当の奥深さを知った。

「ワインにはソムリエ、コーヒーにはバリスタがいるように、日本茶にも正しい知識と魅力を伝える専門家がいるべき。日本茶はそれくらい特別な価値のある嗜好品です」とブレケルさんは語る。

ブレケルさんは改めて、日本茶と関わる仕事に就くことを決意し、2013年に再来日。2014年には、日本茶についての幅広い知識をもとめられる「日本茶インストラクター」の試験に2回目の挑戦で見事合格した。その後は日本茶の有数の生産地である静岡県の茶業研究センターで研修生として研鑽を積み、国内外で日本茶を普及する活動を始めた。

特に、ブレケルさんの指導で日本茶を入れて飲むワークショップは、コロナの影響前には世界各地で開催しており、欧米人を中心に人気が高かったという。また、ブレケルさんが発信しているSNSへの反響も大きく、2018年には、自身がセレクトした日本茶の販売も始めた。それぞれの銘柄に、ブレケルさんによるテイストの特徴の紹介文がついていて、自分好みの日本茶を探す楽しみを後押ししてくれる。

2021年には、著書『A Beginner’s Guide to Japanese Tea』を念願だった英語とフランス語で出版した。ブレケルさんがスウェーデンで日本茶について知りたいと思ったころ、ほとんど何も情報がなかったという。「世界中の、日本茶について興味を持っている人、味わってみたいという人のために本格的なガイドブックをつくりたい」、ブレケルさんのそんな思いの到達点の一つでもある。

ブレケルさんの著書「A Beginner’s Guide to Japanese Tea」(2021年発行)
ブレケルさんの著書「A Beginner’s Guide to Japanese Tea」のフランス語版「Le Guide du thé Japonais」(2021年発行)

「私には更にもう一つの大きな夢があります」とブレケルさん。それはスウェーデンで毎年開催されるノーベル賞授賞式後の晩餐会で、いつか日本茶を供することだと言う。

「日本茶は、日本文化を凝縮したような英知の詰まった飲み物。平和で豊かな人類の未来のために貢献した人々を称える場にふさわしいと思います」とブレケルさんは語る。 日本茶の奥深さ、味わいを知るブレケルさんらしい、思いのこもる「夢」である。

* NPO法人日本茶インストラクター協会が認定する資格。(参照)https://www.nihoncha-inst.com/english.html