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February 2022

鉄道の駅に設置される最新型のスライド式ホームドア

  • 最新型のスライド式ホームドアの試作機
  • 従来型のホームドアは、扉の位置が固定されている。
最新型のスライド式ホームドアの試作機

日本の鉄道の駅では、乗客の線路転落や車両との接触を防ぐため、プラットホーム上に設置する「ホームドア」の導入が進んでいる。中でも、世界で初めて開発された、あらゆる電車の車種・編成に応じて開口部を自在に変えることができる最新型のスライド式ホームドアについて紹介する。

従来型のホームドアは、扉の位置が固定されている。

日本では、鉄道の駅ホームから転落する件数が一年間で約2,900件(2019年度)を数え*、また、ホームでの列車等との接触事故件数は160件(同年度)起きている。その対策として、プラットホーム上に、乗客の線路転落や車両との接触を防ぐ「ホームドア」の導入が進められている。一般的なホームドアは、電車がプラットホームに到着すると、可動式の扉が開き、乗客が乗り降りする。しかし、この方式は、ホームドアと車両ドアの位置を固定的に一致させることが必要で、運行車両のドア位置が全て同じでないと使えない、という厳しい制約がある。

ホームドアを普及させるためには、こうした課題を解決する必要があった。大阪に本社を置く西日本旅客鉄道株式会社(JR西日本)は、プラットホームの床から天井までをカバーする「フルスクリーン式」のホームドアによって、あらゆる電車の車両に対応できるホームドアを世界で初めて開発した。この新型ホームドアは、2023年春に大阪の中心地に開業予定の「うめきた(大阪)地下駅」に導入される予定だ。

「新駅には将来的に多様な車両が入線し、多くのお客様がプラットホームに集まることが想定されます。そこで、線路側とホーム側を完全に遮断できて高い安全性を確保できるフルスクリーン式で、なおかつ、あらゆる車種・編成に応じて開口部を自在に変えることができるホームドアの開発に着手したのです」と同社イノベーション本部の四家井祐一(しかい ゆういち)さんと、施設部の河合陽平(かわい ようへい)さんは話す。

新型ホームドアは、上部から吊り下げた壁状の「親扉」一枚と、ガラス製の「子扉」二枚で一つのユニットを構成し、計5ユニットで1ブロック(車両1両分相当)となるよう設計されており、停車する車両の長さに応じてブロックを連結して設置される。それぞれのユニットが入線する列車の長さに応じて自動的にスライドし、更に親扉と子扉が車両ドアの位置に正確に一致するように調整して動くシステムだ。実際は、駅に列車が接近すると、車種判別のために列車へ搭載されたIDタグ情報を、プラットホームにある専用のリーダーが読み取ることで入線する列車の車種・編成を瞬時に判別し、その列車の車両ドアに最適な位置にホームドアがスライドする仕組みだ。

開発に当たって、いくつかの課題があった。その一つが「装置のスリム化」である。

「従来タイプのホームドアに比べ、多種多様な動きが可能になる分、扉を開閉するための内部構造が複雑になるため、本体の厚みが増してしまうという問題がありました。それによってプラットホーム上の通路幅が狭くなり、お客様の移動に不便が生じてしまうのです。この課題を解決するため、駆動部や配線をすべてドア上部のボックス内に収め、扉部分のスリム化を実現しました」と四家井さんは話す。

もう一つの課題は「動作スピードの追求」だ。車種・編成に応じてホームドアの開口部を自在に変えるためには、ダイナミックかつ繊細なドア移動が必要となる。動作スピードが遅いと、乗客の乗降に時間がかかり、運行ダイヤに悪影響を与えかねない。数分おきに電車が発着する都市部の駅では、数十秒の遅れであっても、その後のダイヤに大きく影響を与えてしまう。

「そこで、車種・編成に応じた最適な開口パターンを研究し、ホームドアのスライド時間や距離が最小になるように、動作プログラムを開発しただけでなく、同一車種であっても停車位置の違いによって扉レイアウトを変更し、開閉時間を極力抑えられるシステムを検討しました」と河合さんは話す。

この新型ホームドアは、「うめきた(大阪)地下駅」で試行導入した後、他の駅への導入も検討されているという。

「今回、従来のホームドア以上に、お客様が安全に安心してご利用いただくために、新たな技術を駆使し「究極の安全確保」を目指して開発を進めました」と四家井さんは話す。また、河合さんも、「これからも、お客様の「安全」「安心」にこだわった技術開発を進めていきたいと思っています」と語った。

* 出典:国土交通省(Source: Ministry of Land, Infrastructure, Transport and Tourism) https://www.mlit.go.jp/tetudo/content/001378759.pdf)

親扉と子扉の位置を変えることで、どのような車種にも対応できる。上図の例は、例1が1車両にドアが3つある場合、例2が1車両にドアが2つある場合。
ホームドア上部に設置したセンサーで乗客がドアに衝突したり、挟まれたりするのを防ぐ (左)。また、ホームドアと車両間に乗客が取り残されないように、ホームドア上部の線路側にもセンサーを設置する (右)。