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  • 最大1000トンの雪が貯蔵される雪室の内部
  • 日本で最も降雪量の多い地域の一つに位置し、きれいな空気と水を必要とする日本酒の生産に適している「魚沼の里」
  • 雪室で貯蔵された、まろやかな味わいの酒
  • 雪の冷気だけで常に3~4度の室温が保たれている施設の内部
  • 36万リットルの日本酒が貯蔵されている施設のタンク
  • 2013年に設計された、国内で多くの建築賞を受賞している「八海山雪室」の建物

January 2022

雪で熟成する日本酒

最大1000トンの雪が貯蔵される雪室の内部

雪国の新潟県ではかつて、生鮮食品は年間を通じて天然の冷蔵庫 “雪室(ゆきむろ)”で貯蔵されていた。同県では現在、酒造会社が「独特のまろやかで芳醇な酒質」を持った日本酒を造るために、雪冷蔵の知恵を活かしている。

雪室で貯蔵された、まろやかな味わいの酒

日本有数の豪雪地帯として知られる新潟県南東部の南魚沼市では、電気冷蔵庫が普及する前までは、冬に雪を集めてわらなどで囲い、一年中、野菜や魚などを貯蔵する天然の冷蔵庫、“雪室”が利用されてきた。

この魚沼の八海山の麓で日本酒を造り続ける八海醸造株式会社は、2013年、その知恵を活かした「八海山雪室」を建設した。施設は三層構造の断熱材を用いており、最大1000トンの雪を貯蔵できる貯雪室と雪中貯蔵庫を備える自然対流式*の雪室だ。施設の内部は、常に3~4度の室温が保たれている。施設内のタンクで36万リットル、一升瓶(1.8リットル瓶)20万本の日本酒を熟成させている。また、雪室に風を通してつくる冷風は、日本酒や発酵食品などを扱うショップの冷蔵庫に送られ、電力の一部を補う“雪冷房”としても利用されている。また、雪室の建物は、周囲の自然とよく溶け込んだ簡素ながらモダンな印象の建築で数々の賞を獲得している。

日本で最も降雪量の多い地域の一つに位置し、きれいな空気と水を必要とする日本酒の生産に適している「魚沼の里」

この雪室について、八海醸造株式会社広報担当の浜崎こずえさんは「八海山雪室の建設のきっかけは、2011年3月の東日本大震災でした。従来のエネルギーに頼らず、自然エネルギーの導入を検討するなかで着目したのが、魚沼地方に古くから伝わる雪室でした。日常生活では、交通障害になり、屋根の雪おろしをしなければならないなど、厄介なことが多い雪を“資源”としてとらえ直し、雪国という地の利を積極的に生かそうと考えました」と説明する。

八海山雪室で3年間貯蔵された酒は、まろやかな味わいとなるという。純米大吟醸**であるこの酒を、同社は2016年から販売している。

雪の冷気だけで常に3~4度の室温が保たれている施設の内部

「日本酒の貯蔵で広く利用されているサーマルタンク(個別の温度制御ができるタンク)は、機械のかすかな作動音がタンク内の酒に伝わります。一方、雪室ではそうした機械の音や振動がなく、きわめて静かです。さらに安定した低温と高湿度の環境により、独特のまろやかで芳醇な酒質に変化をとげるのだと考えています」と浜崎さんは語る。

36万リットルの日本酒が貯蔵されている施設のタンク

魚沼地方は、コシヒカリという日本有数のおいしい米の産地として知られる。八海山雪室では、日本酒のほかに地元産コシヒカリや野菜などを貯蔵し、ショップで販売している。中でも、お米はふくよか、根菜類は甘みが豊かな味わいで、おいしいと人気がある。 八海山雪室では毎日、見学ツアーを開催している。参加者は1年を通じて施設に大量の雪が残っている光景に驚くと言う。

「30度を超える真夏でも、施設内は冷蔵庫並みの涼しさです。クリーンエネルギーとしての雪の力を実感していただけると思います」

2013年に設計された、国内で多くの建築賞を受賞している「八海山雪室」の建物

八海山雪室は、電気ではない自然エネルギーを用いて日本酒や野菜を貯蔵するのみならず、雪国の人々の知恵から生まれた、次世代に伝えたい知恵をも蓄えている。

* 空気中に起こる温度の変化や圧力差によって生じる自然な空気の流れを利用して温度を維持する方式
** 大吟醸は50パーセント以下まで磨いた米を使ってつくられる日本酒。