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  • スマートアイカメラ(白い横長長方形の装置)をスマホに装着して診察を行うケニアの医療従事者
  • OUI Inc. の海外戦略部長の中山慎太郎さん(中央)と、2021年にケニアで開始されたスマートアイカメラを使った眼科遠隔診療モデルのパイロットプロジェクトの関係者
  • OUI Inc.のCEOの清水映輔さん
  • ベトナムでスマートアイカメラを使って患者の目を診察するOUI Inc.のCEOの清水映輔さん
  • スマートフォンに装着したスマートアイカメラ
  • ブラジルの先住民集落でのスマートアイカメラによる眼科診断
  • マラウイでのスマートアイカメラを使った診察

December 2021

スマートフォンを使って目の病気を診断

スマートアイカメラ(白い横長長方形の装置)をスマホに装着して診察を行うケニアの医療従事者

眼科医が設立した日本のベンチャー企業が、スマートフォンを使って目の病気を簡単に診断できる、画期的な装置を開発した。

OUI Inc.のCEOの清水映輔さん

2020年のデータ*によれば、世界中で4300万人の人々が失明し、2050年には約1億2000万人に達すると予測されている。その悲劇を防ぐには、失明に至るような疾病の予防と治療が必要である。その診断を正確に行うためには、目の内部の状態まで細かに観察できるようにする眼科診断用の医療機器が欠かせない。しかし、今のところ、特に開発途上国の地方において、眼科医の数が少ない上に、診断に欠かせない医療機器を備えている病院や診療所が十分にある状況ではないという。

この課題解決に希望をもたらしたのが、「Smart Eye Camera (スマートアイカメラ)」だ。スマートフォン(以下「スマホ」)のカメラと照明部分に装着するアタッチメント型の医療機器で、眼科診察に必要な光を作り出し、眼の画像を撮影できる。

この機器を開発したのが、眼科の医師でもあるが、OUI Inc.(ウイインク)の代表取締役も務める清水映輔(しみず えいすけ)さんである。OUI Inc.(ウイインク)は、清水さんら眼科医が設立した慶應義塾大学医学部発のベンチャー企業だ。スマートアイカメラは、清水さんが、開発途上国の患者にアイケアを届けることを目的とする日本のNPO法人ファイトフォービジョン(FIGHT FOR VISION)のボランティアとして2017年にベトナムを訪れた際の体験が開発のきっかけとなった。

ベトナムでスマートアイカメラを使って患者の目を診察するOUI Inc.のCEOの清水映輔さん

「診察や手術のために、ハノイ市から車で4時間ほど離れた農村を訪れました。地方の病院には眼科診断機器がありませんでした。現地のスタッフは目の診察をペンライトで行い、電池が切れるとスマホのライトを使い始めました」と清水さんは振り返る。

「細隙灯(さいげきとう)顕微鏡」は、眼の前側(前眼部)の診断をするための医療機器だ。これは、縦長の細い光の束(スリット光)を患者の目にあてて、目の像を拡大しながら角膜や水晶体などを観察する装置である。「これは眼科医にとって最低限必要な、とても重要な装置で、内科医にとっての聴診器のようなものなのです」と清水さんは話す。しかし、大きくて扱いづらく、重量があり、そして高価なことから、開発途上国の地方では普及していない。

スマートフォンに装着したスマートアイカメラ

「世界の失明原因の半数以上を占める疾患は、眼のレンズを部分的に濁らせてしまう白内障です。白内障は加齢とともに全ての人がかかりますが、適切な予防と治療によって失明を回避できる確率が高まります。ベトナムでの経験から、スマホに装着した医療装置によって、前眼部を眼科診断するために必要な光を、スマホの光から変換するというアイデアが浮かびました」

ブラジルの先住民集落でのスマートアイカメラによる眼科診断

ベトナムから帰国した清水さんは、同僚たちと一緒にプロトタイプの製作を開始した。1年半の試行錯誤の後、とうとう「スマートアイカメラ」を完成させたという。

スマートアイカメラは、細隙灯、白拡散光、青色拡散光の3タイプの光を作り出すことができる。これらの光は、すべて前眼部の診断に必要ものだ。このスマートアイカメラを使えば、従来の細隙灯顕微鏡と同程度の機能が得られ、前眼部の病気のほとんど全てを診断することが可能になる。また、ウイインクは、スマートアイカメラ対応の専用アプリも開発し、このアプリを使えば、撮影した眼の画像をセキュリティの確保された環境でプレビュー・管理・共有することができる。

マラウイでのスマートアイカメラを使った診察

「スマホに装着する前眼部の眼科的診断用の製品は他にもあります。ですが、それらのほとんどは追加のバッテリーが必要となります」と清水さんは説明する。「スマートアイカメラはスマホのカメラと光源を使うため、バッテリーを必要としません。加えて、類似の装置と比べ、とても安価で、市場において優位性があります。私たちは、スマートアイカメラで世界の失明者増加の状況を乗り越えられると予想しています。そのため、発展途上国のたくさんの医療施設で広く使われるように、手頃な価格で提供する必要があるのです」

OUI Inc. の海外戦略部長の中山慎太郎さん(中央)と、2021年にケニアで開始されたスマートアイカメラを使った眼科遠隔診療モデルのパイロットプロジェクトの関係者

日本においては、スマートアイカメラは2019年に医療機器として登録され、国内の臨床現場でも利用されている。

また、スマートアイカメラは、眼科医療において新しい遠隔診断のモデルも可能にした。専用アプリをインストールすることで、(眼科医以外の)医師が患者の目の画像を撮影して眼科医に送り、遠隔で診察してもらうことが可能だ。

2021年4月からは、スマートアイカメラは沖縄県の宮古島と、東京都の伊豆と小笠原諸島のうちの7島に導入されている。これらの島では、地元の医師が本土の眼科医と協力し、遠隔診断モデルを採用している。

「多くの場合、離島に拠点を置く医師の専門は眼科ではありません。しかし、スマートアイカメラを使えば、少なくとも診断のための眼の画像は簡単に撮影できます。それらの画像を本土の眼科医に送れば、離島の患者は本土まではるばる行かなくても診断を受けることができるのです」と清水さんは説明する。

ウイインクは、アフリカ、中南米、東南アジアなど20か国以上の国で、現地の眼科医、医療機関、NGO、国際機関と協力して、パイロットプロジェクトを実施してきた。現在は、スマートアイカメラで撮った画像を機械学習にかけることで、白内障のAI診断を開発中だ。完成すれば、地域における眼科診断の質を劇的に改善させることができるようになる。

ウイインクは、「2025年までに世界の失明を半減させる」というビジョンを掲げている。 清水さんは、「治療が必要な患者を迅速に発見して、眼科専門医の治療へとつなげるための革新的ツールとして、世界中のたくさんの医療関係者や支援団体にスマートアイカメラを導入してほしい」と語る。

* https://www.thelancet.com/journals/eclinm/article/PIIS2589-5370(21)00132-2/fulltext