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  • Tシャツアート展
  • 海面に姿を表す、砂浜美術館「館長」のニタリクジラ
  • 潮風のキルト展
  • 漂流物展の展示物

August 2021

砂浜の美術館

Tシャツアート展

高知県黒潮町(くろしおちょう)の美しい入野(いりの)海岸は、「砂浜美術館」である。

海面に姿を表す、砂浜美術館「館長」のニタリクジラ

他に類を見ない「砂浜美術館」は、高知県の南西部、太平洋に面する人口約1万人の黒潮町にある。「美術館」と言ってもそこに何か建物があるわけではない。長さ4キロメートルにわたり、黒潮町を代表する入野海岸の砂浜が、美しい自然風景の中で、美術展や創作イベントを開催するための美術館に見立てられているのだ。

砂浜美術館が生まれるきっかけになったのは、1989年に初めて開催されたTシャツアート展である。これは写真家・北出博基(きたで・ひろき)さんの、自分の写真をTシャツにプリントして砂浜に吹く風でなびかせるというアイデアから始まった。高知在住のアーティストで北出さんの友人の梅原真(うめばら・まこと)さんがこのアイデアを入野海岸で実現させようと、町役場の若手職員に持ちかけた。

「そのころ日本はバブル景気の真っ只中で、趣向をこらしたイベントが各地で開かれていました。しかし、その大半は地域に根付くことなく一度で終わってしまうことがほとんどで、Tシャツアート展もそうなることが危惧されていました。そんな懸念を払拭するために梅原さんや町の職員たちが重ねた話し合いの中から生まれたのが、砂浜美術館という考え方だったのです」と、NPO砂浜美術館の代表を務める村上健太郎さんは言う。

潮風のキルト展

こうしてたどりついたのが、美しい砂浜そのままを美術館にするというコンセプトだった。美術館は、砂浜に展示される作品から、波や風が描き出す砂模様、波打ち際で遊ぶ子どもたち、海を泳ぐクジラまで全てを美術館の作品と見なしている。

それから30年あまり、砂浜美術館は様々な展示やイベントを行ってきた。なかでも、全ての始まりであるTシャツアート展は人気が高く、全国からたくさんの応募作品が集まるようになっている。他に、はだしマラソン、砂浜沿いの松林で開催する「潮風のキルト展」、浜に打ち上げられた多種多様なものを集めた「漂流物展」などが人気である。イルカや美術館の「館長」に任命しているニタリクジラに会いに行くホエールウォッチングツアーも実施している。

村上さんが、来訪者にいちばん見てほしいのは、常設展示、つまりは日常の砂浜の眺めであると言う。「時が経つのをわすれ、美しい入野海岸の風景を眺めていれば、きっとアート作品に触れるような心持ちになれます」と村上さんは言う。

漂流物展の展示物

入野海岸は、ボリビアの有名な反射する塩湖になぞられ、時に「高知のウユニ塩湖」とも言われる。条件が整えば、砂浜が海水で濡れて反射し、鏡のような景色に変わる。

2003年にNPO法人化した砂浜美術館は、隣接する公園の管理や観光振興の業務なども一つにまとめ、黒潮町を活性化する重要な拠点の役割も果たしている。そして、こうした取組みに賛同するボランティアが全国から集まり、先駆的なTシャツアート展など美術館が手掛けるイベントは日本国内ばかりでなく海外でも開催されるようになっている。

これまでになかった「美しい砂浜をそのまま美術館にする」という考え方が、地域や国境を越えて多くの人々の共感を呼んでいるのである。