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  • 梼原町でのスギの伐採
  • 隈研吾さんが設計し、梼原産のスギを使った雲の上の図書館
  • 高知県梼原町の中心部
  • 梼原町は、郷土料理、民泊、森林浴などの体験を提供するために、地元の人材を活用している。
  • 梼原町は、郷土料理、民泊、森林浴などの体験を提供するために、地元の人材を活用している。

July 2021

森林資源を未来へつなぐ町

梼原町でのスギの伐採

森林資源に恵まれた高知県梼原町(ゆすはらちょう)では、地元住人と自治体が一体となり、循環型社会の実現を目指している。

高知県梼原町の中心部

標高1455メートル、雄大な四国カルスト高原に位置する高知県梼原町は周囲を森林に囲まれた人口約3300人の町である。カルストとは、雨による浸食などによって石灰岩が地表に現れている地形のことで、標高の高い四国カルスト高原にある梼原町はそのイメージを「雲の上の町」と表現している。町には、「2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会」の主会場である新国立競技場の設計などで知られる建築家・隈研吾さんの設計による施設*が六つある。それらは、町の緑豊かな森林と美しく調和している。“自己主張するのではなく、周囲の環境に溶け込むような建物を建てる”という隈さんの有名なコンセプト「負ける建築」は、梼原町の一連の建築の原点となっている。

隈研吾さんが設計し、梼原産のスギを使った雲の上の図書館

1950年から70年の日本の高度経済成長期の住宅需要が落ち着くと、次第に日本の林業は衰退し始めることとなった。町面積の91パーセントを森林が占める梼原町も例外ではなかった。梼原町は森林資源の活用と保全に関して見直しのため協議を重ね、2000年に「森林づくり基本条例」を策定、森林の有する機能の高度発揮と林業の持続的な発展を基本理念とし、森や水の資源を守り、人と自然の共生を高めるための森林再生に多角的に取り組んできた。その年の10月には、全国に先駆けて梼原町森林組合が「FSC認証」(適切に管理された森林を評価する国際制度)を取得するなど、適切な森林管理による持続可能な林業経営に取り組んでいる。

「梼原の人々は、古くから森林の恵みを源に、共同体を形成して、人々が協働して自活してきました。これが町民の高い自治意識の原動力となり、“人も森林の一部である”という考え方を根付かせていました」と、梼原町森林の文化創造推進課の立道斉(たてみち・ひとし)さんは言う。

町は、山間の地形を生かした風力発電、小規模水力発電を町営で行い、その売電益を基金として、町の森林管理事業に給付金を交付している。さらに、間伐材や未利用となる端材は圧力を加えて固形燃料(木質ペレット)に加工し、民間施設のボイラーや公共施設の冷暖房機器の燃料として活用されている。

梼原町は、2050年には温室効果ガス排出量70パーセント削減、吸収量の4.3倍増(1990年比)、地域資源利用によるエネルギー自給率100パーセント超を目標に掲げ、木質バイオマスのエネルギー利用など先進的な取組を行ってきている。地域の資源を循環させるこの仕組みは国からも高く評価され、2009年には政府が選定する「環境モデル都市」に選定された。

喫緊の課題は、林業技術の後継者の育成だ。梼原町は林業に携わる若者の交流の場を設け、林業技術の習得を図る場づくりの他、町外から技術を学ぶ移住者を募り、現在、2名を受け入れている。

梼原町は、郷土料理、民泊、森林浴などの体験を提供するために、地元の人材を活用している。
梼原町は、郷土料理、民泊、森林浴などの体験を提供するために、地元の人材を活用している。

地元の人材の活用にも力を入れており、ガイドによる現代人を癒す森林浴体験プログラム「森林セラピーロード」の整備を始め、郷土料理でのおもてなしや、民泊などにも取り組んでいる。

「森林を未来へつなぐことの意義を多くの人々に広めたい。そのために森に触れるきっかけ作りも、私たちの役目だと思っています」と立道さんは言う。

* 「梼原町総合庁舎」「マルシェ・ユスハラ」「YURURIゆすはら」「雲の上の図書館」「雲の上のギャラリー」「雲の上のホテル」