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  • 春日山原始林
  • 春日大社
  • 御蓋山
  • 滝坂の道の石畳
  • 「絹本著色鹿島立神影図」(けんぽんちゃくしょくかしまだちしんえいず)。御蓋山を背景に、鹿に乗ったタケミカヅチノミコトが描かれている。

July 2021

春日大社の神域の森

春日山原始林

奈良県奈良市にある春日山原始林(かすがやまげんしりん)は、春日大社の神聖な森であり、千年の時を超え、原生的な森林生態系が人の手によって維持されてきた。

御蓋山

奈良市は、710年から784年の間、都「平城京」がおかれ、政治、文化の中心として栄えた場所である。都が移った後も古都として1,300年余の歴史を重ね、伝統と文化を育んできた。1998年には、その平城宮跡とともに、春日大社、春日山原始林、ほか東大寺等の仏教寺院の8件が「古都奈良の文化財」としてユネスコの世界遺産に登録されている。(Highlighting Japan2020年12月号参照)

春日大社は、768年に天皇の命によって社殿が建立されたと伝わる。その春日大社の祭神の一方『タケミカヅチノミコト』が、茨城県にある鹿島神宮から白鹿に乗って降臨されたと伝わるのが、春日大社の東、標高283メートルの御蓋山(みかさやま。三笠山とも書く)である。鹿は神の使いとして古の時代から保護されているので、奈良市内では鹿の姿があちこちで見られる。

神山・御蓋山、そして、御蓋山の更に奥、標高497メートルの花山(はなやま)は、 そのどちらか一方を、あるいは両方を「春日山」と呼ぶことがある。この二つの山を含んだ「春日山原始林」約250ヘクタールは、春日大社の神域として千年以上、人の手による在来種の補植以外の狩猟や伐採が禁じられ、原生的な姿を今日に伝えている。春日大社では、年間2200回以上、祭(神事)が行われているという。社殿の中で行われている神事もあれば、御蓋山など春日山原始林の中で、神職のみで古代さながらに行われる神事もあるという。ユネスコの世界遺産に登録された理由も、春日山原始林が春日大社と一体となって古代の信仰を伝えているという文化的背景がある。

春日大社

春日大社の神職・荒井清志さんは「一般の方々の立入りが禁止されている地域での神事は、神職だけで執り行うものも多く、古代さながらに山の中、森の中で行う厳粛さがあります」と述べる。また、春日山原始林について荒井さんは「その特徴の一つは、温暖地域の極相*林となっていて、山全体がブロッコリーのようにモコモコした形をしていることです。木材を得るために、スギやヒノキといった針葉樹を植えた人工林を有する山とは異なる、優しい形をしています。シイやカシのような照葉樹林が、中心市街地に近接した場所にあるのは、世界的に見ても稀なのではないでしょうか」とも話す。

しかし、一方で、シカ**の食害や、害虫が運ぶ病原菌による樹木の枯死などの問題もある。こうしたことから植樹も行われてきた。

荒井さんは、「人が入ることを禁じられた山ではあるものの、実は古来より、時の権力者らによって植樹が行われてきたという記述が書物に残されています。山の木々が枯れるということは、つまり、降臨された神様が天界に帰られてしまうのだと考えられていたのでしょう。それを防ぐ目的で植樹がなされてきたと考えられます」と語る。

滝坂の道の石畳

国が山を管理する現在も、倒木があれば補植し、また外来種植物を見つけては駆除するなど、適度に人の手が入ることによって春日山原始林は守られてきた。

春日山原始林を守り、次世代につないでいくためには、原始林を知ってもらうことも重要だ。

「花山には、人の立ち入りを許されたエリアがあります。遊歩道が設けられていて、ハイキングコースもあります。私のおすすめは、花山と高円山の間の谷を通る “滝坂の道”です。山道沿いに小さな滝がたくさんあることから、この名前がつきました。古いお地蔵様や、小さな洞窟の壁に彫られた石窟仏などもあり、人々の信仰が感じられる道でもあります。こうした人々が訪れることができる場所を通じて、原始林の大切さを感じてもらいたいですね。栗の花が咲く5月になれば、一体が薄い金色に輝くようで見事な景観になる場所もあります。絶滅危惧種に指定されている「火の鳥」とも呼ばれているアカショウビンも生息しています」と荒井さんは話す。

「絹本著色鹿島立神影図」(けんぽんちゃくしょくかしまだちしんえいず)。御蓋山を背景に、鹿に乗ったタケミカヅチノミコトが描かれている。

日本各地の神社には境内や周辺に「鎮守の森」と呼ばれる神聖な森があり、人々の手によって大切に守られている。神が降臨したとされ、静かに千年以上の時を刻んだ春日山原始林は、正に春日大社の神域、鎮守の森であり、古都奈良の神秘の象徴として未来への引き継ぐ大切な遺産でもある。

* 植物群落を構成する種や個体数が時間に伴い変化することを遷移と言うが、これ以上遷移が進まなくなった状態を「極相」と言う。
** シカは、もともとや野犬などを避けて原始林でなく公園部分に生息していたが、頭数が増えて、春日山に生息して生物体系が変化している。