Skip to Content

The online magazine HIGHLIGHTING JAPAN

INDEX

Language
  • 秋田県の鳥海山山麓に茂る「あがりこ大王」と呼ばれる樹齢300年の巨大ブナ
  • 中静(浅野)透・国立研究開発法人 森林研究・整備機構理事長
  • 雪深い八甲田山のブナ林
  • 屋久島の森林と渓流、そして苔むした石
  • 秋田県の能代市のスギ林
  • 紅葉に彩られる長野県の赤沢自然休養林

July 2021

日本の多様な森

中静(浅野)透・国立研究開発法人 森林研究・整備機構理事長


日本人は古くから森林資源の恩恵を受けながら生活してきた。中静(浅野)透・国立研究開発法人森林研究・整備機構理事長に日本の森林の特徴や機能について話を伺った。

秋田県の鳥海山山麓に茂る「あがりこ大王」と呼ばれる樹齢300年の巨大ブナ

林野庁によれば、日本の国土の約3分の2が森林で覆われているとのことですが、その日本の森林の特徴を教えてください。

日本は、木が育つために十分な気温と降水があるので、ほとんどの場所でもともとの植生は森林です。しかも国土は南北に長く、低地もあれば高地もあり、地域によって気候が様々ですから、森林の種類も多様です。その種類は、暖かな地域に形成されるシイやタブを中心とする常緑樹林、山地や気温の低い地域に形成されるブナやナラを中心とする落葉樹林、そして、気温の低い地域の山地に形成されるモミ属やトウヒ属を中心とする針葉樹林に大きく分かれます。

ヨーロッパや北米の東部も日本と同じ種類の森林はありますが、日本の森林は生えている樹木の種類が多いのが特徴です。例えば、落葉樹林の場合、ブナ以外の樹木の種類は、日本ではヨーロッパや北米の2倍くらいになります。ヨーロッパや北米では、1万年以上前の氷期に多くの樹木が絶滅しましたが、日本では氷河や氷床が発達することがなかったため、絶滅する樹木がほとんどなかったからではないか、と推測されています。

雪深い八甲田山のブナ林

日本において、森林にはどのような機能があるのでしょうか。

森林生態系には様々な機能があります。例えば、木材や非木材林産物などの資源を提供する機能があります。非木材林産物とは、例としては薬草や山菜・きのこなどで、日本の森林には豊富に存在しています。また、防災の機能もあります。日本は山地が多く、雨も多いので、土砂崩れが発生しやすいのですが、山の斜面に木々が根を張ることで、土砂や岩を固定して、土砂崩れを防ぎます。海岸沿いの林は、津波の力を弱めたり、海岸の砂が風によって内陸に運ばれるのを抑えたりする働きもします。そして、森林は文化的な機能も有します。例えば、お寺や神社の周りには多くの神聖な森林がありますし、美しい紅葉を楽しむために多くの観光客が訪れる森林もあります。

日本では、大きな城や寺社の建築のために、木を大量に伐採した時代もありますが、近年は、木の伐採を禁止する区域を設定したり、積極的に植林を行ったりしています。特にスギやヒノキは、真っ直ぐに育ち、加工もしやすいので、多く植えられてきました。実は、日本の森林面積の約40%が人工林ですが、現在、その70%ほどの面積がスギやヒノキ*の森林です。

屋久島の森林と渓流、そして苔むした石

中静さんは長年、ブナの森林を研究されてきましたが、日本の中でも特徴的なブナ林はどこでしょうか。

日本海側や東北地方の多雪地にあるブナ林です。これらの地域の山間部は冬に最大2メートルから3メートル以上の雪が積もります。これほど雪深い地域のブナ林は世界でも非常に珍しいのです。春にはブナの新緑と残雪とが織りなす美しい景色を見ることができます。白神山地は、この多雪環境にほとんど手付かずのブナ原生林が世界最大級の広さで残っていることから、世界自然遺産に登録されました。八甲田山のブナ林では、20世紀初頭、牛馬が放牧され、ブナの再生を妨げるササが食べ尽くされました。そして、ブナの芽生えがたくさん育ったあと、森林が炭の生産のために伐採されました。やがて、約100年の年月を経て、ほぼ同じ年齢のブナの木からなる森林が、とても美しい形で出来上がったのです。

また、秋田県の鳥海山山麓には「あがりこ」と呼ばれる変わった形をしたブナの巨木が生えている森林があります。通常のブナは幹が真っ直ぐ上に向かって伸びますが、「あがりこ」の幹は、太く、でこぼこしており、地上2メートルぐらいの高さからたくさんの細い幹が伸びています。それには理由があります。この地域では、住民が冬にブナを伐採して薪や炭として使っていました。伐採したブナの幹の切り株からは新たに何本もの幹が再生・成長します。成長した幹を、何本かを残し、伐採するというサイクルを繰り返すと、株全体が枯死することなく、やがて「あがりこ」となります。「あがりこ」は人とブナとの持続的な関係を表していると言えます。

秋田県の能代市のスギ林

新型コロナウイルス感染症流行前は、自然を楽しむために海外から日本を訪れる方も多くいらっしゃいました。感染症収束後、海外の方々に訪問して頂きたいとお考えの森林をご紹介ください。

前述のブナ林に加えて、世界遺産に登録されている屋久島の森林がお薦めできます。スギなどの樹木が生い茂り、苔が地面を覆う薄暗い森林は、アニメ映画「もののけ姫」に登場する森林のモデルにもなりました。また、スギの産地として有名な秋田県の能代市には平均樹齢約250年の大きなスギが林立する森林があります。約50メートルの高さの真っ直ぐなスギが立ち並ぶ景色は非常に素晴らしいです。ヒノキの産地として有名な長野県木曽郡では、森林の中を歩くことで心身を癒す「森林浴」の発祥の地である赤沢自然休養林など様々なヒノキ林の散策を楽しむことができます。

紅葉に彩られる長野県の赤沢自然休養林

世界の森林は様々な問題に直面していますが、日本はその問題解決のためにどのような貢献を行っているでしょうか。

森林には木材の供給のみならず、二酸化炭素の吸収、防災、食糧生産など様々な機能があります。日本は長年にわたって培ってきた知識や技術を活かし、そうした機能を保全、向上させるための、開発途上国への支援を実施しています。例えば、森林研究・整備機構は、林野庁、国際協力機構(JICA)と協力して、ベトナムにおける森林の防災機能の強化を支援しています。また、熱帯雨林の保全を通じた気候変動の抑制という目的から、ペルーやブラジルにおいて森林の管理や二酸化炭素蓄積量の測定に関する技術支援を行なっています。

今後は、森林の様々な機能を総合的に分析して、森林をどのように、どのぐらい保全、あるいは活用すれば、その地域や国、そして世界にとって持続的で効率的な利用が可能なのかということを定量化するための研究を進めていきます。こうした取組は持続可能な開発目標(SDGs)の達成にも貢献することができると考えています。

* スギ花粉が原因の花粉症は国民の約4割が罹患していると言われる。その対策として林野庁は、スギ人工林の伐採・利用、花粉の少ない苗木への植え替え、スギ花粉の発生を抑える技術の実用化などの対策を進めている。