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  • 玉虫塗の食器
  • 銀粉やアルミニウム粉を蒔いたあとに上塗りする。
  • 光沢のある玉虫塗
  • 木や金属などの素地を磨いた下地に漆を塗る、磨くという作業を繰り返す。
  • 最後の工程で、模様をつけて仕上げる。
  • 仙台を拠点とする東北楽天ゴールデンイーグルスは、玉虫塗ナノコンポジットコーティングが施されたヘルメットを使っている。

January 2021

玉虫色に輝く器

玉虫塗の食器

深い黒色で有名な日本の伝統工芸・漆器は、どうしても表面が傷つきやすいという性質があった。その弱点を克服する技術開発によって、漆器の耐久性を向上させて用途を広げたのが、宮城県仙台市の「玉虫塗」である。

光沢のある玉虫塗

宮城県仙台市で生まれた漆塗りの技法「玉虫塗」は、名称の由来であるタマムシの羽のように、光の加減によって微妙に変化する艶やかな光沢が特長である。その歴史は、1928年に輸出向け工芸品開発による東北の産業の発展を目的に、政府が仙台に設けた「国立工芸指導所」に遡る。ここでは取組の一つとして、伝統的な漆工を海外の方々の嗜(し)好にも合うようにするための研究開発が行われ、色、デザイン、質感など全ての面で試行錯誤が繰り返された。その中で、金属粉を漆塗りに活用するアイデアが生まれ、1932年、玉虫塗として結実した。

玉虫塗はまず、木や金属などの素地を磨き、下地を作る。次に、下地に漆を塗る、磨くという作業を繰り返す。そして、その上に、銀粉やアルミニウム粉を、漆を接着剤として使い蒔く。さらに赤や緑などの染料を加えた漆を塗る。そして最後の工程で模様をつけて仕上げる。こうした工程を経て、蒔かれた銀粉やアルミニウム粉に当たった光の反射で、表面に独特の光沢が生まれる玉虫塗が完成する。

木や金属などの素地を磨いた下地に漆を塗る、磨くという作業を繰り返す。

現在、玉虫塗を使った製品を手掛けるのが有限会社東北工芸製作所である。同社は1933年に工芸指導所と東北帝国大学(現在の東北大学)の支援を受けて設立された。1939年には、工芸指導所が持つ玉虫塗の特許の利用を認められ、玉虫塗の商品化を開始した。そして、第二次世界大戦後に、コーヒーカップ、サラダボウル、花瓶、ペンケース、コースターなど国内外向けの商品を開発し、販売した。1985年には宮城県の「伝統的工芸品」の指定を受け、製品は仙台の特産品として知られるようになった。

その玉虫塗に、新たな転機が訪れたのは2012年のことだった。

銀粉やアルミニウム粉を蒔いたあとに上塗りする。

「ドイツで行われたヨーロッパ最大級のデザインフェスティバルに玉虫塗の食器を出展し、多くの来場者から好評を得たのですが、あるバイヤーから『食洗器で洗えるのか』という質問を受けたのです。漆器は傷がつきやすく、食洗器では洗えない。食洗器が普及している国々も含んで、広く海外に販路を求めるためには、この課題を克服する必要がありました」と同社の常務取締役・佐浦みどりさんは語る。

これを解決したのは「ナノコンポジットコーティング」と呼ばれるナノレベル(1ナノメートル=100万分の1ミリメートル)の塗装技術だった。同社は国立研究開発法人産業技術総合研究所東北センターと共同で、粘土と樹脂をナノレベルで均一に混合させ、硬度の高い樹脂材料を開発した。この材料で玉虫塗に保護層(ナノコンポジット層)を作り重ねることで、硬度が上がり、傷がつきにくく、紫外線にも強い製品が可能となった。

最後の工程で、模様をつけて仕上げる。

「技術開発は試行錯誤の連続でした。コーティング剤を薄く均一にスプレーするためには、高度の技術が必要で、最初は膜が白く濁ったり、凹凸ができでしまうなどの問題がありました。当社のベテラン塗師(漆芸の技術者)を中心に、コーティング剤の粘度やスプレーの吹き出し圧、塗工回数などを調整し、約3年かけて技術を確立しました。長い経験に基づいたきめ細やかな塗装技術が生かされたと思っています」と佐浦さんは話す。

こうして完成した新たな玉虫塗技術は、傷つきにくいだけでなく、ガラスや磁器への応用も可能にした。この成果は2015年「第6回ものづくり日本大賞」経済産業大臣賞、2016年のG7伊勢志摩サミットにおける各国首脳への贈呈品採用などにつながった。さらには地元のプロ野球チーム・東北楽天ゴールデンイーグルスの目に留まり、2020シーズンから選手用ヘルメットの塗装にも採用されている。

仙台を拠点とする東北楽天ゴールデンイーグルスは、玉虫塗ナノコンポジットコーティングが施されたヘルメットを使っている。

「野球選手のヘルメットに使用されたことで、紫外線や衝撃など過酷な使用にも耐えることが証明され、この技術のこれからの可能性に大きな期待を寄せています。また、選手たちが躍動する姿を通じて、光の加減で色合いが微妙に変わる玉虫塗の魅力を多くの方々に感じていただけたことがうれしいです。今後は、従来の主な用途である食器にとどまらず、携帯電話や自動車内装部品など幅広い用途に玉虫塗を応用していきたいですね」と佐浦さんは、語る。

90年余り前に日本政府がまいた種から、民間企業の努力によって生み出された実用的な技術は、今後、長く輝き続けるだろう。