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  • 着物の研究家のシーラ・クリフさん
  • 着物姿のシーラ・クリフさん

August 2020

新たな着こなしを提案する着物研究家

着物の研究家のシーラ・クリフさん

イギリス出身のシーラ・クリフさんは、着物の歴史や文化に関する研究や講義を行っている。講義、著書、エキシビションなどを通じて、クリフさんは着物文化の存続のみならず、その新たな方向性を提案している。

着物姿のシーラ・クリフさん

「着物」は、長く、興味深い歴史を持つ日本の民族衣装である。埼玉県新座市の十文字学園女子大学教授で、着物の歴史とその日本文化との関係の研究で知られるシーラ・クリフさんが着物に初めて出会ったのは、1985年に新体道を学ぶために日本に移住して間もない頃だった。「“古いもの”と“新しいもの”が混在した東京のエネルギーに可能性を感じた」というシーラさんは、東京に住むようになってから、趣味で骨董市巡りをするようになった。そこでいつも目をひかれたのが、時代ものの着物だったという。「骨董市で初めて買ったのは、真っ赤な『長襦袢』でした。後になって日本の友人に『それは下着だ』と教えられてびっくり。どうしてこんなに鮮やかで美しいものを見えない内側に着るのだろう!と、ますます着物に興味を持ったのが研究の始まりでした」とシーラさんは話す。

以来、シーラさんの研究は、着物の成り立ちや背景にある文化の歴史、産地や、織り染めといった伝統工芸技術にまで及び、現在は国内外で着物のショーやエキシビションを展開している。

シーラさんによれば、海外に着物の愛好家はたくさんいて、インターネットを通じて着物を購入しているという。しかし、彼らが着物の歴史や、どのように作られているかを知る機会は少ない。

「私はよく、着物には“根が付いている”と言います。その土地に生える植物から繊維や染料をとって布を織り、染める。着物はつくられる場所、そこの自然とのつながりがとても深いのです」とシーラさんは語る。

今、シーラさんが最も力を注いでいるのが「箪笥開き」プロジェクト。女性たちに、それぞれの着物と着物にまつわる人間模様を調査して取りまとめて後世に伝える研究活動である。着物の技術はとても高いので、非常に長持ちする。シーラさんによれば、一着の着物は三世代以上にわたって受け継ぎ着られることもあるという。

日本人には、近代化が始まる明治時代(1868年~1912年)から洋装が定着し始めたが、その頃でも着物を日常的に着る習慣は残っていた。洋装がほとんど主流になったのは第二次世界大戦後だが、今でも、多くの若い女性は良い着物をセレモニー用に一着だけは持っている。シーラさんによれば、しばしば母から娘に、時には100年以上前の曽祖母の着物が受け継がれていることもあるという。

イギリスでの着物の展示会

「着物には皆それぞれの家族の歴史が刻まれています」とシーラさんは話す。「家族を亡くして身の回りのものを処分しても母の箪笥の着物だけは大切にしている方は多いです。そうした話を聞くと、温かく切ない思いで胸が一杯になります」

しかし、現代の日本では、若者がファッションの選択肢の一つとして着ている姿は見かけるが、成人式とか結婚式といった特別なセレモニー以外、日常的に着物を着ているような日本人は少ない。毎日、外出する際も着物を着ているシーラさんは、その一因を、伝統に基づいた正式な着方以外では着物を着てはいけないといった風潮があるからと考えている。そこで、日常の生活にも取り入れられる新しい着物の着こなしを提案しようと、2018年に『Sheila Kimono Style』を出版した。シーラさんは、この本の中で自らモデルとなり、色鮮やかな着物に、その色や柄に合う帽子などの小物類を合わせるといった着こなしを紹介している。「着物には、まずは帯を合わせ、そして草履やバックなどの小物類を合わせて着付けるものです。その際、季節に合う色を取り合わせたり、その日のテーマカラーを決めたり、自分の好きな物語を想像しながらコーディネートを決める。それは、ファッションが好きな者にとってはたまらない楽しみです」とシーラさんは言う。

シーラさんは、着物の新たな着こなしや楽しみ方を提案することで、日本のかけがえのない民族衣装を、日常的なものにしようとしている。