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  • コンパクトで機動性にも優れた「アーバンリグ」
  • アーバンリグで回収できる炭は、燃料として使用できる。
  • アーバンリグの連続ユニット式は、各ユニットが一定の温度設定を保つことで、軽油などを効率的に抽出することができる。

August 2020

海洋ごみの資源化を実現する技術

コンパクトで機動性にも優れた「アーバンリグ」

世界中で毎年1000~2000万トンのゴミが海へ投棄され、その80パーセントがプラスチックごみであると言われ、海洋環境等へ及ぼす悪影響が懸念されている。しかし、それらを回収したとしても、安全に処理することは、容易ではなく、大きな課題となっていた。この課題を、新しい独自の技術開発によって解決した企業を紹介する。

アーバンリグで回収できる炭は、燃料として使用できる。

近年、海洋プラスチックごみが及ぼす生態系を含めた海洋環境への影響、船舶の航行への障害、沿岸域居住環境への影響といった被害が世界的に懸念され、G7、G20といった首脳レベルの会合でも議論される地球規模課題となっている。日本の沿岸でも、ペットボトル、発泡スチロール、プラスチック容器などの大量のごみが浮遊して海岸に漂着し、沿岸の海洋生態系を破壊する可能性が指摘されている。加えて、こうした海洋ごみは、回収しても、その処理が極めて難しい。特に、海水に浸って塩分が付着した海洋プラスチックごみを、そのまま焼却処理すると、塩素、ダイオキシン等の有害物質が発生してしまうことに加え、発生した塩素で焼却炉も傷めてしまうため、安全な処理方法の確立が懸案となっていた。

これを独自の技術の開発によって解決したのが、大阪府の株式会社ワンワールドジャパンである。同社が開発した装置「アーバンリグ」は、プラスチック、石、海藻、金属、木材などが混在している海洋ごみでも、そのまま熱分解処理することができる。

その技術の鍵となるのが、「過熱水蒸気」である。

アーバンリグの連続ユニット式は、各ユニットが一定の温度設定を保つことで、軽油などを効率的に抽出することができる。

「過熱水蒸気は、水を沸騰させ発生した蒸気を、更に加熱した高温の蒸気です。アーバンリグは、ごみの分解炉の内部を過熱水蒸気を充満させることによって無酸素状態にし、廃棄物を熱分解します。通常の焼却炉ですと、酸素反応が起こり、ダイオキシンが発生しますが、無酸素状態なので、酸素反応が起こらず、ダイオキシンも二酸化炭素も発生しません。塩素もプラスチック触媒によって吸着処理するので、装置そのものを傷めることもありません」と同社代表取締役CEOの伊藤智章さんは語る。

しかも、ごみを分解するだけではなく、再生資源として油、炭、金属などを回収することができるのである。

「アーバンリグは、熱分解の過程で蒸留された気体を冷却することによって、プラスチックから軽油などの油とメタンガスなどに分離することができるのです。また、プラスチック以外の有機物は水や酸化物の気体として消えてしまうので、炭だけが、固体として残り、金属も変質することなく回収ができます。もちろん、これらもリサイクル資材として活用可能のものです」と伊藤さんは説明する。

実際に、プラスチックが10パーセント含まれるごみ200立方メートル(20万リットル)からは、アーバンリグで処理すると1万リットルの軽油、50立方メートルの炭が回収できるという。

さらに、アーバンリグの特長はその機動性である。装置はコンパクトなので10トントラックまたは大型コンテナに積載して移動し、ごみの回収現場で処理作業を行うことができる。回収した海洋ごみを海岸から処理施設まで運搬する必要がないため、作業人員の削減や処理コストの削減が図れる。しかも、回収したごみから装置を動かす軽油、灯油、重油なども作れるので、燃料費も大幅に削減可能である。そして、船舶に搭載すれば、回収した海上に浮遊していたごみを、すぐに船上で処理することもできる。

「今後、世界の各地域でアーバンリグを活用して、再生した燃料や金属を販売するシステムができれば、ごみは資源となり、再資源化に従事する人たちの雇用を生み出します。このように『ごみを活用して利益を生み出す循環サイクル』を産業化することで、持続可能性のある事業を創出していきたいと思っています」と伊藤さんは話す。

この技術は、2019年には、環境省と日本財団が実施する「海ごみゼロアワード」の「イノベーション部門」で日本財団賞を受賞した。すでに中国では装置が稼働し、現在、沖縄県の宮古島でも導入に向けた検討が進められている。

アーバンリグは、深刻化する海洋ごみ問題を改善する大きな可能性を秘めている。日本はこれまで、様々な環境技術を活用して国際的な環境問題の改善に貢献してきたが、そこに新たなページが書き加えられようとしている。