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  • 生酛造りで造られた日本酒
  • 蔵人が蒸した米に麹菌を均一になるようにもみ込む「床もみ」
  • 「山卸」の作業を行う蔵人
  • 福島の名物・「いかにんじん」と「こづゆ」
  • 『テイスト・オブ・パリ』2019においてフランス料理に日本酒を合わせるコルドン・ブルー・パリ総料理長のエリック・ブリファール氏

May 2020

自然と蔵人の知恵が造る酒

生酛造りで造られた日本酒

福島県には、有名で、歴史ある日本酒造りの酒蔵が多い。そうした老舗酒蔵の10代目当主に、福島県の酒造りの歴史や、蔵人が持つ知恵を次世代へとつなぐ取組について伺った。

蔵人が蒸した米に麹菌を均一になるようにもみ込む「床もみ」

福島県の日本酒の歴史は、300年以上前、会津藩政下で始まったとされている。山々に囲まれた会津地方では、日本酒造りと、原料となる米の栽培に適した清廉でミネラル豊富な水が得られる。また、気候も寒冷で、日本酒の品質を下げる雑菌の繁殖も少ない。こうしたことから、酒造りが会津とその周辺へと広がり、福島は日本有数の酒の産地となった。その伝統は今に受け継がれ、現在、60以上の酒蔵が日本酒を生産している。

酒の肴となる伝統的な郷土料理も豊富で、それらを日本酒と楽しめるのも、福島県の大きな魅力の一つとなっている。例えば、ホタテ貝で出汁をとった汁に野菜がたっぷり入った「こづゆ」(「ざくざく」とも言う)、細切りにしたスルメとニンジンとを混ぜた「いかにんじん」、濃厚な甘さの干し柿「あんぽ柿」などである。

「山卸」の作業を行う蔵人

「福島県の日本酒の特徴は、老舗から新しいものまで様々な酒蔵が、それぞれの方法で、バラエティ豊かなお酒を生産していることです。ある人は『福島の日本酒は酒質のデパート』と評しています」と福島県中部、二本松市の大七酒造社長の太田英晴さんは話す。大七酒造は1752年創業、福島県を代表する老舗酒蔵の一つで、太田さんは10代目当主である。大七酒造は、「生酛(きもと)造り」という製法で現在も醸造している日本で数少ない酒蔵の一つである。

この江戸時代に生まれた生酛造りの製法は、大七酒造の日本酒を際立ったものにしている。日本酒造りには、アルコール発酵に必要な酵母を大量に含んだ「酛」を造る工程がある。大七酒造の生酛造りでは、桶の中で、蒸した米、麹、水を混ぜ、蔵人が木製の棒ですり潰す「山卸」(やまおろし)という作業を行う。酒蔵の中に存在する乳酸菌が酛に自然に取り込まれ、乳酸を生成する。この酸性の環境で不要な雑菌は淘汰されることになり、酵母を加えると、酵母は混じり気のない環境の中で増殖する。生酛造りには手間と時間がかかるが、そうして生まれた日本酒は、豊かなうま味のある、ソフトでスムーズな味わいとなる。

福島の名物・「いかにんじん」と「こづゆ」

大七酒造の日本酒は、日本料理のみならず、フレンチや中華など外国料理にも合うと国内外で高く評価されており、2000年の九州・沖縄サミットや2008年の北海道洞爺湖サミットの晩餐会のほか、2010年と2013年のオランダ王室の宮殿で催された晩餐会でも提供されている。

「長い間、受け継がれてきた蔵人の技が、自然の微生物が持つ力を引き出し、深い味わいを持った日本酒が生まれるのです」と太田さんは話す。

福島県の日本酒は専門家からも高い評価を得ている。例えば、「全国新酒鑑評会」では、2018年度まで、7年連続して、金賞を受賞した銘柄が日本一多い県となっている。その理由の一つに、1992年に開校した福島県清酒アカデミー職業能力開発校の存在がある。福島県酒造組合が運営する同校では3年間にわたり、日本酒造りの基本から応用までを学ぶことができ、卒業した多くの若い人材が県内の酒蔵で蔵人として活躍している。

『テイスト・オブ・パリ』2019においてフランス料理に日本酒を合わせるコルドン・ブルー・パリ総料理長のエリック・ブリファール氏

「福島の日本酒の品質向上は、長年の人材育成の成果です。清酒アカデミーの卒業生同士が、切磋琢磨をしながら、互いに技術レベルを高めています」と太田さんは話す。「福島は東日本大震災による風評被害を受けましたが、酒蔵が協力し、これまで以上に美味しいお酒を造ることで、信頼を取り戻してきました。新型コロナによる危機も、皆の力で乗り越えていきます」