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  • 納豆、味噌汁、ご飯
  • 大豆(左)を塩と米麹(右)で発酵させてつくる味噌
  • 漬け床の様々な漬物
  • 大根を燻してつくる「いぶりがっこ」のスライス

May 2020

発酵が育む東北の食

納豆、味噌汁、ご飯

東北には、地元で収穫された食材を発酵させた食品が数多くある。当初、厳しい冬の季節を乗り越えるといった必要性から生まれた東北の発酵食品は、地域の食文化の中核をなすに至っている。

世界には、微生物の働きによって食材を発酵させて作る食品が数多くある。ヨーロッパではヨーグルトやチーズ、アジアでは中国の白酒、ベトナムのニョク・マム、タイのナン・プラーなどが代表的な発酵食品である。日本でも、古くから味噌、醤油、日本酒、納豆、米酢、漬物、鰹節など多くの種類の発酵食品が作られてきた。

大豆(左)を塩と米麹(右)で発酵させてつくる味噌

「世界の中でも、日本ほど発酵食品の種類が多い所はありません。日本は湿度が高く、発酵微生物が繁殖しやすいからです。また、魚、野菜、穀物など食材も豊富なので、発酵食品の種類も多くなります」と福島県の酒造家の生まれで、世界中の発酵食品を研究してきた東京農業大学名誉教授の小泉武夫さんは話す。

食材を発酵させる大きな利点の一つは、食品が長期間保存できるようになることである。冷蔵庫がなかった時代、発酵は食品を保存するために必要だった。日本人は魚を多く食べるので、魚を使った発酵食品も多い。例えば、イカの切り身、内臓、塩を混ぜて発酵させる塩辛、魚をご飯と共に漬けて、発酵させて作るナレズシなどはその代表的な例である。中でも、特に東北地方は発酵食品の種類が多い地域である。小泉さんによると、その理由は、冬の厳しい気候にあるという。冬の間、寒さや雪で農作物が採取できないため、発酵食品が冬の食料として作られたのである。大根、キュウリ、白菜、ナスなどの野菜を味噌、醤油、麹などの「漬け床」に漬けて作る漬物は、特に種類が豊富である。野菜を材料にした漬物は、発酵微生物によって作られるビタミン類が多く含まれるだけではなく、食物繊維も豊富なので、健康にも非常に良い。

漬け床の様々な漬物

「東北では古くから農業が盛んでした。夏の農作業は汗をかき、塩分を失います。漬物には塩分も多く含まれていますので、漬物を食べれば塩分も補給できるのです。東北の人たちが生きていくためには、発酵食品が必要だったのです」と小泉さんは話す。

東北では、大豆を発酵させて作る納豆もよく食べられる。総務省統計局の家計調査によれば、全国の主要都市の中で納豆への支出金額(2017年から2019年の平均)が1番多いのは福島県福島市、2番目は岩手県盛岡市、4番目が山形県山形市といずれも東北である。小泉さんによれば、今は東北でも他の地域と同様に、ご飯に納豆をかけて食べるのが一般的であるが、明治時代以前は、納豆を味噌汁に入れて食べていたという。東北では奈良時代(710年~794年)から、水田で米を作り、あぜ道で大豆を作っていた。大豆は豆腐や味噌の原料でもある。東北では、納豆だけではなく、豆腐も味噌汁に入れていた。

「日本が近代化する明治時代(1868年~1912年)より前、東北の人を含め日本人は肉をあまり食べませんでしたが、大豆には肉と同じぐらい、タンパク質が含まれています。つまり、肉を食べなくても味噌汁や納豆、豆腐から非常に豊富なタンパク質を得ることが出来ました。だから、東北の人も寒い冬を乗り越えるスタミナを身につけることができたのです」と小泉さんは話す。

大根を燻してつくる「いぶりがっこ」のスライス

東北には数多くの発酵食品があるが、小泉さんが外国人にもお勧めするのが、秋田県の「いぶりがっこ」である。いぶりがっこは、ぬか漬けにした大根を、木で燻(いぶ)したものである。世界には、コーヒー、ウィスキー、ハムなど燻した食品も多いが、発酵させた漬物を燻すのは世界でもいぶりがっこだけという。

「多くの発酵食品は独特の臭いと味を持っています。普段食べ慣れていない外国の方には食べにくいものもあるかもしれません。ただ、いぶりがっこは、海外の燻した食品と同じように、燻した煙のにおいがします。ですから、外国の方にもおいしく食べていただけると思います」と小泉さんは話す。

東北の気候、食材、そして発酵が結びつき、多様性に富み、おいしく、栄養豊かな食が生まれている。

(2013年2月号掲載記事を再編集)