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March 2020

紙で作るデザインとアート

東京・立川発の、紙を使ったアート性の高い製品が、国内外で人気を集めている。

無数の切れ込みが同心円状に入った一枚の丸い紙の端をそっと持ち上げると紙の器が現れる。空気を含んで、重さを感じさせないほど軽く、広げ方によって皿のようにも花瓶のようにも簡単に形を変えられ、しっかりとその形状を保つことができる。

『空気の器』と名付けられたこの不思議で美しい紙の器を製造販売しているのは、東京都立川市の福永紙工株式会社である。代表取締役の山田明良さんは、「『空気の器』は発売からおよそ10年が経ちますが、今もなお毎年のように新作が発表される息の長いプロダクトになりました。グラフィックデザイナーを始め様々なアーティストとコラボレーションして、同じ20センチメートルほどの円形の型でありながらそれぞれユニークな『空気の器』が生まれ続けています」と話す。

同社は従業員数41名の中小企業で、紙の印刷から加工までを一貫して行っている。1963年の創業以来地域に根ざし、ハガキや名刺の印刷や、地元菓子店の折箱の製造などを請け負ってきた。しかし、山田さんが二代目の社長に就任すると、2006年、社内に紙の可能性を追求するプロジェクト「かみの工作所」を発足させた。山田さんは「印刷のデジタル化、ペーパーレス化で町の小さな印刷業者がどんどん淘汰される厳しい時代に直面していますが、日本は世界に例を見ないほど多くの種類の紙が生産され、素材としての美しさもある。そんな紙のアート性を発信したいと思いました」とその経緯を語る。

かみの工作所では、グラフィックやプロダクトのデザイナーに参加してもらい自由な発想で新しい紙の製品を考案、同社の技術者と共同で形にしていく。そうした中から、建築模型に使われる人物や植物などの「添景」を全て紙で制作するという、『1/100建築模型用添景セット』などユニークな作品が生まれた。建築家の寺田尚樹さんによる作品である。2009年には東京の国際見本市「インテリアライフスタイル」へ初出展、かみの工作所から生まれた製品は、来場者から大きな注目を集め、海外からの問い合わせも増えた。そして2010年、東京を拠点に活躍する建築家ユニットのトラフ建築設計事務所が『空気の器』を設計した。細かいピッチの刃の型を用いて正確に切り抜く“打ち抜き加工”の高い技術力が要求されたが、これを福永紙工の技術チームがクリアして製品化された。2011年には、福永紙工と寺田さんは、新たなブランドとして「テラダモケイ」を立ち上げ、『1/100建築模型用添景セット』、『1/100グリーティングカード』、『1/100コースター』など、切ったり、折り曲げたりするだけで、立体的なデザインを楽しめる製品を販売している。

現在、かみの工作所には35組のデザイナーが参加しており、ノート、メッセージカード、ゲーム、フォトアルバムなど幅広い作品が生まれている。例えば、2020年に東京で開催するオリンピック・パラリンピックのエンブレムをデザインした野老朝雄さんによる幾何学的な文様を施した折り紙やパズル、建築家・デザイナーである長岡勉さんによる、海中をゆらゆらと漂うクラゲを模したモビール(インテリアとして飾られる動く彫刻)などである。

その他にも、ファッションデザイナー、エンジニアリングデザイナー、写真家、漫画家、染色家など、様々な分野のクリエイターや企業とのコラボレーションを実現させている。ウィンドウディスプレイや舞台美術などの大型のオブジェや、最新のデジタルアートと素朴な紙が融合する体験型のインスタレーションの制作など、その領域は拡大している。

「紙の可能性を広げるためにスタートした『かみの工作所』の活動を通じて、デザインの可能性を広げることにもつながったと感じています。私は、デザインとは『幸せな未来を想像する力』と考えています。当社は製造業ですが、そうした力を、これからも持ち続けたいです」と山田さんは語る。