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March 2020

選手と環境に優しい寝具

東京で開催されるオリンピック・パラリンピックの選手村では、環境に優しく、寝心地の良い寝具が提供される。

人間は一人一人、体形が違う。特にアスリートは競技の種類によって筋肉の付き方が異なる傾向があり、例えば、全身の筋肉が発達した百キロ以上の柔道選手がいれば、肩幅が広く発達した水泳選手、体重三十キロ台の女性陸上競技選手もいる。

そうした一人一人の体形に合う「最良の寝具」の開発に挑んだのが、東京2020 オリンピック・パラリンピック競技大会のオフィシャルパートナーである株式会社エアウィーヴである。同社は、今大会、選手村に宿泊するオリンピック約18,000人の全ての参加選手が質の高い睡眠を得られるよう、カスタマイズできる寝具を選手村に提供する。

同社が開発した寝具は非常に特徴的である。マットレス、ベッドフレーム、掛布団に至るまで、再資源やアレルギーに配慮した素材を使い、機能性にも優れている。

例えば、ベッドフレームの素材は段ボールである。

「ベッドフレームの開発メンバーの一人が、スーパーでいちごのパックが段ボールに梱包されているのを見て、段ボールでベッドフレームを作ることを思い付いたのです」と同社社長の高岡本州さんは話す。

開発チームは、段ボール、木材、金属のベッドフレームを用いて検証した。例えば、選手がベッドの上で飛び跳ねることも想定して、高さ30センチメートルから150キログラムと50キログラムの重りをベッドに落下させる実験を行なった。そうした様々な実験の結果、段ボールは木材や金属と比べ、力を支える梁を多く作れるため、衝撃性を上げられることが分かった。さらに、軽さ、コスト、加工のしやすさにも優れていた。

また、睡眠を直接的に支える厚さ約10センチのマットレスは、素材が一般的なスプリングでも、ウレタンでもなく、独自の樹脂繊維素材であるエアファイバー。マットレスの素材は頭、肩の上部・腰の中部・脚の下部と三分割になっており、各々のパーツが繊維素材の密度によって硬さを変えている。

「マットレスに体が沈み込みすぎると寝返りが打ちにくく、その寝返りのために筋力(筋肉のエネルギー)を使うため脳波が動き、深い眠りが中断されます。つまり “眠りの質”を高めるためには、睡眠中の寝返りを少ない筋力で可能なマットレスが理想的です」と高岡さんは話す。

しかし、約18,000人の選手一人一人の体型に合わせて寝具をつくるのは難しい。エアウィーヴは今まで、大勢の選手にマットレスを提供して体型を測り、データを集めた。各々の選手の体形、体重、競技の種類などをシステムに入れると、クラウド上のデータベースで判定してその人の体型に合った硬さの寝具が提案できるシステムを開発した。

「選手は提案されたパターンの通りに三分割されたマットレス素材を入れ替えることで、自身の体型に合ったマットレスにカスタマイズでき、少ない筋力で寝返りができることにより深い睡眠が得られます」と高岡さんは言う。

掛け布団はアニマルフレンドリーの視点と動物アレルギーの人への配慮から、羽毛と同等以上の機能性を持つ人工羽毛を使う。枕、シーツ、敷き布団も全て同様に配慮されている。

寝具は大会終了後、エアウィーヴが100パーセント回収する。国や地方自治体の介護・医療施設や、災害時の避難所用として提供することが検討されている。その上で、廃棄されるマットレスは、溶かしてペレット状にし、再度寝具として加工したり、プラスチックのビニール袋などに再加工される。

「寝具を通して最高の眠りを選手たちにお届けすることが、今大会での私たちのミッションです。全ての選手が質の高い眠りを得られるようにサポートすることで、選手のベストパフォーマンスに貢献したいです」と高岡さんは話す。