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February 2020

衛星を活用して除雪

日本の高速道路に、衛星からの誤差わずか数センチの位置情報を利用し、安全かつ正確に道路の雪を取り除く除雪車が導入されている。

雪の多い地域での安全のため、日本では冬季に24時間体制の除雪作業が欠かせない。中でも高速道路会社NEXCO東日本の事業エリアは、北海道、東北地方など雪の多い地域で、同社の営業路線3943キロの60パーセントを超える約2500キロは、冬季の積雪が1メートルを超える豪雪地帯を通過している。2018年度に除雪作業を実施した総延長距離は46万キロ。地球10周に相当する距離である。

NEXCO東日本技術・環境部雪氷専門役の中谷了さんによれば、除雪車のオペレーターには高度な熟練技術が必要だと言う。

「路面や路肩が雪に覆われている時は、道路に引かれた白線や路肩のガードレールが目視できません。降雪時には視界不良となるため、現場の路面状況を熟知した上でデリケートな運転操作が求められます。さらにオペレーターは、除雪のための機器も同時に操作しています。そのため、高い技術と経験が必要となるのです」

しかし、熟練作業員の高齢化に伴い、今後、除雪作業を担う労働力不足が懸念されていると言う。こうした背景を踏まえ、同社では2013年から除雪車運転支援システムの技術開発に着手し、実証実験を経て、2018年1月から実用を開始した。

この除雪車運転支援システムでは、日本の準天頂衛星「みちびき」から送られる高精度の測位情報を活用している。みちびきは、常に日本の真上を通る軌道上にあるため、山間部などGPS信号が届きにくい地域でも電波を受信することができ、途切れることのない測位が可能になる。

除雪車には主に、走行車線上の雪を取り除き路肩へと寄せる除雪トラックと、路肩にたまった雪を取り除くロータリー除雪車がある。今回開発された除雪車運転支援システムは、高精度測位情報と、高精細の3次元地図情報を組み合わせることにより、高速道路上で作業中のロータリー除雪車の位置を、誤差数センチの正確さで運転席のガイダンスモニターに表示する。それにより、路肩と走行車線とを区切る白線が雪で見えなくても、正確に路肩の除雪ができる。

「運転席のモニターには、走行車線へのはみ出しや、ガードレールへの接触を回避するために、車体の向きをどの方向へ、どの程度修正すれば良いかなどの情報が表示されます。これにより、経験の浅いオペレーターでも安全・確実に除雪作業ができるようになります」と中谷さんは話す。

NEXCO東日本は2018年2月に、運転支援システムを搭載したロータリー除雪車を使って、直線・カーブの除雪の公開実演を行ったが、予定のコースからはみ出すことなく除雪できていることが確認できた。

この結果を見た熟練オペレーターは「路上の白線が全く見えない状態でも、直線からカーブに差し掛かる地点をガイダンスモニターで見て判断し、正確にハンドルを切っている。視界不良の時でも十分有効だと言える」と驚きの表情を見せた。中谷さんは、「当日、取材に応じたオペレーターからは『約10年分の経験値に相当する』との評価も聞かれました」と話す。

課題は、導入にかかるコストである。みちびきの信号を受信する受信機やアンテナは、まだ開発されたばかりで市場が育っていないため、価格が高い。また、高精細地図の作成にも多額のコストがかかる。

「今後はみちびきを活用したカーナビゲーションシステムが普及拡大することが予想されます。市場の拡大による低価格化を期待しています。また、高精細地図の作成については、現在は地図製作会社から提供を受けていますが、今後は自社での開発も検討しています」と中谷さんは話す。

除雪車運転支援システムは、2018年1月から北海道の道央自動車道・岩見沢~美唄間21キロメートルで試行導入されている。3度目の冬を迎えた現在は、実際の除雪作業を行う中で、オペレーターの意見を踏まえ、ガイダンスモニターの位置、その表示内容や画面デザインの改良を行っていると言う。

「今後は、運用区間の拡大を図るとともに、より高速な時速50キロで本線の除雪作業を行う除雪トラックにも搭載する予定です。そして将来、自動運転技術を取り込んだ除雪作業の完全自動化を目指します」と中谷さんは話す。