Skip to Content

February 2020

大空への夢を宇宙へ

インドネシア出身のヨサファット・テトォコ・スリ・スマンティヨさんは、防災に役立つリモートセンシング技術の研究開発に取り組んでいる。

インドネシア出身のヨサファット・テトォコ・スリ・スマンティヨさんは、千葉大学環境リモートセンシング研究センターの教授として学生の指導に当たりつつ、リモートセンシング用のマイクロ波レーダシステムの研究開発を行っている。リモートセンシングとは、遠方の対象を観測する技術である。マイクロ波レーダは、電波を人工衛星や飛行機から地表へ照射しその散乱を解析、画像化することで、地表の様々な状態を観測できる。例えば、地殻変動の可視化によって自然災害対策を講じられるほか、植物の生育や海面の波なども観測が可能で、その応用範囲は非常に広い。ヨサファットさんが開発した「円偏波合成開口レーダ(CP-SAR)」は、雲や霧、煙も透過するマイクロ波の利点を活かし、より詳細で正確な地上のデータを得られるのが特徴である。

「インドネシアは日本同様、地震や火山活動の多い国です。CP-SARは火山活動による地殻変動を精密に観測するために開発しました。1年間に1センチ程度の地面の移動でもわかります」とヨサファットさんは言う。「今後、地球への環境負荷が増大していく中、食糧、エネルギーのバランスをとるためにもセンシング技術は欠かせません。人類が宇宙へ進出する際の惑星探査にも活用できる技術で、夢があります」

ヨサファットさんの幼少期1970年代は、インドネシアでは国産航空機の開発が盛んに行われており、航空機を造ることは多くのインドネシアの子供たちにとっての夢となっていた。ヨサファットさんも、自分で図面を引いて作った模型飛行機を飛ばして遊んだと言う。大学に進学すると、1989年にインドネシア科学技術省の海外留学奨学生として1万5千人の中から選ばれ来日、金沢大学工学部で学んだ後、2002年に千葉大学で博士(工学)を取得した。

「大学は充実した研究生活が送れる環境が整っており、日本に留学して本当に良かったと思っています。ここではセンサを搭載する無人航空機も開発したので飛行機を造る夢も果たせましたしね」とヨサファットさんは笑顔で話す。

千葉大学環境リモートセンシング研究センターは、その分野ではアジアのハブの役割も果たしている。ヨサファットさんは研究室の学生と共に、マレーシアのマレー半島の土砂崩れのマップを作製する国際協力機構(JICA)の技術協力や、インドネシアの都市環境変化に伴う食糧問題を予測する国際共同研究に参加している。研究室にはインドネシアを始め、海外からの留学生も多く、帰国して研究を続ける卒業生たちの活躍で各国との連携が強化されることが心強いとヨサファットさんは言う。

2001年、ヨサファットさんは財団を設立し、将来研究者になる夢を持つインドネシアの子供たちへの奨学金支給を始めた。2019年末にはその1期生が研究職に就いたという知らせが届き、ヨサファットさんは涙を流して喜んだ。

ヨサファットさんは現在、地震予測を目指して、地震発生と電離圏(地表から60キロメートル以上にあり、イオンと電子が多く含まれる層)の電子密度の変化との関係について研究しているほか、火山噴火の予測のためのセンサ開発も行っている。

「忙しくても好きなことばかりなので苦にはなりません。センシング技術の研究を更に進め、世界に貢献したいです」とヨサファットさんは話す。