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February 2020

美しい星がきらめく町

晴天率が日本屈指であり、美しい星空を誇る岡山県井原市美星町には、県内外から多くの人が天体観測に訪れる。

岡山県西南部の井原市に「美しい星」という名の町、美星町がある。その名のとおり、夜空に輝く星が美しい美星町には、天体観測関連施設が点在し、アマチュア天文家や天文ファンが多く集まる。中でも美星天文台は、誰もが気軽に天体観測を楽しむことができる施設として人気を集めている。

「美星天文台は、市民の生涯学習の場として1993年に開館しました。井原市はもちろん、近隣の倉敷市や福山市からも多くの人が見学に訪れます。また、大型望遠鏡の夜間貸し出しなどを通じてアマチュア天文家の育成・活動支援も行うほか、一般の方々に、気軽に星空を楽しんでいただけるイベントも開催しています」と美星天文台で技師を務める伊藤亮介さんは話す。

美星天文台では、毎週金・土・日・月曜日の午後6時から「夜間観望会」を開催している。口径101センチメートルの大型望遠鏡を使って、その季節ごとの天体を見ることができる人気イベントで、年間約1万4000人が参加する。取材に訪れた12月中旬の日曜日にも家族連れやカップルなど20名ほどが集まっていた。

望遠鏡が納められたドーム内で、職員がPCに目的の天体を入力すると、低い音を立てながら望遠鏡がグルリと向きを変える。すると、来館者が代わる代わるレンズをのぞき込む。職員が「今見えているのは、はくちょう座のアルビレオ。白鳥のくちばし部分に当たる星です」と解説する。ドームの外周を取り巻くベランダに出ると、大型双眼鏡による星空案内や、ボランティアスタッフによる星座解説も行われている。この日は少し雲も出ていたが、それでも街中とは比較にならないほど数多くの星を観ることができた。

小学生の子供2人と妻と共に訪れた男性は、「私自身が宇宙好きなので、子供に見せたいと思い参加しました。子供も興味を持ってくれたので、また別の季節に来たいです」と感想を話してくれた。

伊藤さんは、美星町で天体観測が盛んになった理由を次のように説明する。

「天体観測に適する条件は3つあります。『晴天率が高い』、『大気の揺らぎが小さい』、そして『空が暗い』ことです。岡山県の晴天率が高いことは広く知られていますが、温度変化や風による大気の揺らぎが小さいという点でも日本屈指です。そのため、倉敷市には1920年代から官民の観測施設が置かれていたのですが、都市化の影響で空が明るくなり、観測環境が悪化したことから、観測適地が山側の美星町へ移ってきたのです」

こうした経緯もあり、美星町では1989年に「美しい星空を守る美星町光害(ひかりがい)防止条例」を制定・施行した。

「屋外照明は、保安灯など必要なもの以外は夜10時に消灯しよう、オフィスなど大量の光を使用する場所ではカーテンなどで光を外へ漏らさないようにしよう、などと定めています。美星天文台でも、見学に訪れた子供たちを対象に、暗い夜空を保つことの大切さを伝えています」

2019年からは、美星町観光協会が中心となって、「びせい星守(ほしもり)プロジェクト」の活動に取り組んでいる。具体的には、LEDの街灯を光の拡散が少ない電球色に交換する、午後10時以降は自動販売機の照明を消灯するよう呼びかけるなどの取組を行っている。また、星空版の世界遺産である「星空保護区」[国際ダークスカイ協会] への認定も目指している。

伊藤さんは、こうした取組を通じて、天体観測に適した環境を、将来も残していきたいと語る。

「真っ暗な夜空の中で見る星の美しさは、まさに別格です。その素晴らしさを1人でも多くの人に知っていただきたいです」