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Highlighting JAPAN

江戸の味を受け継ぐ「あんこう鍋」

寒い日に体を温めてくれる「鍋料理」は、日本の冬の定番料理である。江戸時代から食べられている「あんこう鍋」は、人気の鍋料理の一つである。

日本の冬の定番料理と言えば、野菜、肉、魚などの具材を鍋で煮る「鍋料理」である。魚のすり身で作った竹輪、大根、卵などをだし汁で煮込む「おでん」や、豆腐と昆布を入れて煮る「湯豆腐」のほか、郷土料理としても秋田県の「きりたんぽ鍋」、山形県の「芋煮」など、各地に特色ある鍋料理が存在する。

そうした鍋料理の一つに「あんこう鍋」がある。鍋の主役である「あんこう」は、世界中の海に広く生息する魚で、体長は50センチから、大きいものでは1.5メートルにもなる。日本では青森県、茨城県、島根県、山口県などが代表的な水揚げ地である。

冬に「あんこう鍋」を食べる習慣は江戸時代から続いている。寒さに備え肝が大きくなり、脂がのってくるので、冬に獲れたあんこうは特においしいとされる。中でも、その肝臓である「あんきも」は「海のフォアグラ」と称され、その濃厚な味覚は珍味として好まれている。

あんこう料理の専門店として、東京都内に唯一残るのが1830年創業の「いせ源」である。いせ源では通年、あんこう鍋を提供しているが、やはり冬に食べに訪れる人が多い。

白身や肝などの部位を鍋に投入し、野菜と共に、醤油ベースの割り下で煮立てるとあんこう鍋が出来上がる。割り下は店主のみによって代々引き継がれてきた特別なものであり、燗酒を飲みながら食べれば、芯から体が温まる。店では、鍋以外にも、あんこうの刺身や唐揚げ、あん肝などの一品料理を頼むこともできる。鍋の最後は、溶いた玉子とご飯を入れて煮詰めた「おじや」で締めくくる。

「目の前にある一つの鍋を囲み、皆で具材が煮えるまで待ち、煮えれば皆が同じ鍋から具材をよそって食べる。そうしたことで会話が弾み、信頼関係が深められるのが鍋料理の良さではないでしょうか」といせ源の7代目店主の立川博之さんは話す。

店で提供されるあんこうは、青森県下北半島沖の近海で獲れたものが使われている。非常に傷みやすい魚のため、水揚げされてから24時間以内に届けられる。

あんこうは体全体にぬめりがあるので、まな板の上では包丁が滑ってうまくさばくことできない。そこで、「つるし切り」という方法で解体される。あんこうをフックでつるし、まず皮を剥がす。あんこうは骨以外捨てる所のない魚と言われ、白身のほかに皮、肝、あご肉、ヒレなどが次々に取り出され食材となっていく。解体時間は僅か5分ほどで、一杯のあんこうから約20人前の部位が取れる。冬の間、毎日10杯前後をつるし切りにする。

いせ源はあんこう料理だけではなく、その建物も名物である。1923年の関東大震災で全焼した後、1930年に再建された今の建物は、2階建の伝統的な木造建築で、2001年に東京都から「都選定歴史的建造物」に選ばれている。店内の黒光りする床板や太い柱、重厚な調度が老舗店の風格を漂わせる。店の入口の横にあるガラスケースには、氷漬けにされた調理前のあんこうが飾られており、店の外からでも見ることができる。

「あんこうは江戸時代から庶民に親しまれてきた食べ物です。気軽にご来店いただいて、昔と変わらぬあんこう料理を味わってほしいと思います」と立川さんは話す。