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Highlighting JAPAN

お祭り料理でおもてなし

佐賀県唐津市では、毎年11月初旬に開催される祭りの期間中に多くの家庭で盛大なもてなし料理を振る舞う伝統が受け継がれている。

佐賀県唐津市では、毎年11月2日から4日にかけて「唐津くんち」が開催され、国内外から50万人の観光客が訪れる。

唐津くんちは17世紀に始まった唐津神社の秋の例大祭で、「くんち(供日)」には「収穫に感謝し、神にお供えをする日」の意味がある。獅子や龍、鯛などをかたどった、高さ7メートル余り、重さ2~3トンもある14台の巨大な曳山(やま)が、大勢に引かれて町を巡行する。唐津くんちは2016年に、「山・鉾(ほこ)・屋台行事」として、他の32件の祭礼行事と共にユネスコ無形文化遺産にも登録された。

唐津市では祭りの期間中、大皿に用意した「くんち料理」をふるまう習慣が、多くの家庭で代々受け継がれている。仕事の取引先、親戚、友人・知人など、日頃お世話になっている人々を招待して各家庭の料理でもてなすのである。

くんち料理では、アラと呼ばれる大きな魚の煮魚が代表的な料理の一つであるが必ずしも料理が決まっているわけではなく、家庭ごとに異なる。

「我が家では、毎年200人分ぐらいの料理を作ります。準備はお祭りの1か月以上前から始まります」と市内で薬局を営む吉冨寛さんは言う。

吉冨さん宅では、栗ともち米を混ぜた「栗おこわ」、もち米と具材を竹皮で包んで蒸した「ちまき」、豆腐の一種である「ざる豆腐」、「白花豆の砂糖煮」など10〜12種類の料理を作る。

「9月の終わりになると、くんち料理の時に使う食器を倉庫から出して、きれいに洗っておきます。栗おこわに入れる栗など、料理の材料も9月のうちに買って準備しておきます。早めに手配をしておかないと、材料がそろわないのです」と妻の弥生さんは言う。

唐津では、10月1日から毎晩、町ごとに、祭りの時に笛、鐘(かね)、太鼓などの楽器で演奏する「お囃子(はやし)」の練習も始まり、唐津くんち本番に向けて人々の準備も慌ただしさを増す。そして、11月2日の前夜祭の頃には料理の最終段階の仕上げが始まり、3日のお昼には盛りだくさんの料理が食卓に並ぶ。

祭りが始まると、あちこちの知り合いの家を訪れて食事を楽しむ人も多い。昔の友達に再会したり、親戚の新たな家族を紹介されたりなどがあるのも、くんちならではの楽しみである。

このような盛大な料理や酒を準備するには、多額の費用がかかる。昔は月給の3か月分を使って料理を準備したと言われている。

「今でもお金はとてもかかります。だから唐津の人たちは毎年、くんちが終わると、翌年のくんちに備えて積立預金を始めるのです」と寛さんは話す。「それでも、くんちは毎年楽しみです。くんちのたびに、遠くに住む親戚や、子どもの同級生たちなどたくさん人が姿を見せてくれる。心づくしの料理を囲んで、お客さんたちが喜んでくれる姿を見るのが、私たちにとって何よりの喜びです。この、唐津ならではの良き伝統を、いつまでも受け継いでいきたいです」