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Highlighting JAPAN

うなぎ屋のアメリカ人女将

篠崎クリスティンさんは、東京・八王子にある老舗うなぎ専門店で、女将としての役割を受け継いでいる。

東京都西部の八王子市で約80年以上続くうなぎ料理の専門店・志乃ざき。数多くの常連客に愛されるこの店の「女将」を務めるのは、アメリカ・マサチューセッツ州出身の篠崎クリスティンさんである。女将といえば、店の伝統を守りながら、接客だけでなく、調理場や従業員のマネジメントまで仕切る重責ある仕事である。「結婚後間もなく店を継いだ主人を、一緒に働いて助けようと女将になりました。女将という仕事について、私はよく知らなかったのがかえって良かったのかもしれません。その責任の重さを知っていたらプレッシャーを感じてしまったでしょう。先代の女将である義母が優しかったこともあり、迷わず女将になることができました」とクリスティンさんは笑顔で語る。

クリスティンさんが育ったボストンの家は、父の仕事の関係で日本人の来客が多かった。大学では日本語とビジネスを専攻し、4年生の時に日本の大学に留学した。卒業後はそのまま日本に残り、表参道にある貿易会社に就職が決まると、八王子に住むこととなった。やがて「うなぎ職人」の篠崎賢治さんと出会い結婚し、20年以上、ずっと八王子に住んでいる。

「八王子は高尾山も近く、自然を感じることができます。昔、繊維業で栄えた歴史もありながら、大学が多く若い人の感性もあふれている、魅力的な街です」とクリスティンさんは語る。

また、クリスティンさんは着物の愛好家でもある。八王子は今も呉服店が多く、そのうちの1軒を営む友人と、気軽に着物を着て集まるイベントを企画していたこともある。その友人が市内の女子高校で浴衣の着付けを教える時は、サポートに行く。もちろん、女将として店に立つ時は、いつも着物姿である。

志乃ざきは、賢治さんの祖母が小さな食堂として始めた店で、賢治さんの父が料理長になる頃にはうなぎ専門店となっていた。店では、活きたうなぎを仕入れてから2日間きれいな井戸水に放す。これで臭みが抜けるので、ここのうなぎを食べたら苦手だったうなぎが好きになった、と言うお客さんもいるという。さばいて下処理を済ませたうなぎは、客の注文を受けてから蒸して、祖母から受け継いだタレを絡めて炭火で焼き上げる。身のかば焼きの他、内臓は吸い物に、頭は柔らかい煮物、ヒレは焼き物、骨は油で揚げて煎餅に、と捨てる所はほとんどない。

「親や妻、夫など大切な家族が、亡くなる前にうなぎを食べることができて良かった、あるいは食べさせてあげたかった、と涙を流して話すお客さんがたくさんいらっしゃるんです。うなぎは日本人にとって特別な食べ物なんだと思います」

だからこそ、賢治さんとクリスティンさんは丁寧な仕事を心掛けるのだと言う。

志乃ざきでは、年に1度僧侶を招き、うなぎの供養を行う。花や果物を供した座敷で僧侶の読経が済むと、八王子の中央を流れる浅川に行って、十数匹のうなぎを放流する。

「年々希少になっているうなぎの専門店であることに誇りをもっていた義父の遺志を継いでいます。私たちの代で100年目を迎えられる店にしたいと思っています」とクリスティンさんは女将として、その抱負を語る。

日本では「土用の丑の日」といって盛夏の日に、滋養のためにうなぎを食べる習慣がある。クリスティンさんにとって、1年で最も忙しい季節が到来する。