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Highlighting JAPAN

秋田犬ツーリズム

近年、国際的な注目を集める秋田犬の故郷が、その魅力を生かした地域の活性化に取り組んでいる。

秋田犬は秋田県北部を原産とする大型の日本犬で古くは猟犬として飼われていた。最も有名な秋田犬は、東京の渋谷駅前に銅像が建てられている「ハチ公」である。ハチ公(1923-1935)は、飼い主が急死した後も約10年間、帰宅する飼い主を迎えに渋谷駅に通い続けた「忠犬」として広く知られている。一般にも、秋田犬の大きな特徴は、飼い主に忠実で、よく指示に従う性格にあると言われている。

ハチ公を主人公にした1987年公開の日本映画が、2009年にアメリカ映画「HACHI 約束の犬」としてリメークされると、海外で秋田犬の人気に火がつき、飼い主となる外国人が急増した。秋田犬の認定・登録を行なっている秋田犬保存会によると、同会に登録されている秋田犬の頭数は、日本では近年、2000頭代で推移しているが、海外では2010年の約70頭から、現在は4000頭以上にもなっている。2012年にロシアのプーチン大統領、2018年には平昌冬季オリンピックフィギュアスケート金メダリストのロシアのザギトワ選手に日本から秋田犬が贈られたこともあり、その人気がさらに高まっている。

ハチ公の生まれ故郷である秋田県北部の大館市は、秋田犬のこうした国際的な人気を地域の活性化につなげようと、2016年に近隣の北秋田市、小坂町、上小阿仁村の3つの自治体と共同で、日本版DMO (Destination Management Organization)「一般社団法人秋田犬ツーリズム」を設立し、国内外の観光客誘致を進めている。

「Googleの検索トレンドを調べると、2010年頃からakita inuの検索数はMount Fujiを大きく上回っています。ただ、秋田犬の原産地が秋田県北部であることはほとんど知られていません。秋田犬を好きな人が、この地域の自然、食、歴史などの地域資産にも興味を持っていただけるようにすることが、私たちの役割です」と秋田犬ツーリズムの専務理事の阿部拓巳さんは言う。

秋田犬ツーリズムの活動の一つはインターネットでの情報発信である。秋田犬ツーリズムは発足直後、顔が秋田犬、体は人間というアイドルグループが地域の名産や名所を歌い踊りながら紹介する奇抜な動画を制作した。これが10日で100万ビューを達成、マスメディアでも紹介されるなど国内外で大きな反響を呼んだ。

秋田北部の魅力は秋田犬だけではない。雄大なカルデラ湖である十和田湖や樹氷で有名な森吉山を始め、数々の温泉があり、郷土料理「きりたんぽ」、伝統工芸「曲げわっぱ」、日本最古の劇場の一つ「康楽館」など、様々な観光資源にあふれている。秋田犬ツーリズムは、こうした魅力を発信するため、海外のブロガー、メディア関係者、旅行エージェント向けの視察ツアーを実施、海外でも積極的なプロモーション活動を行っている。こうした活動が実り、2014年には約4,200人だった外国人宿泊者が、2018年には約1万人へと増加した。

また、秋田犬と触れ合える場所も広がっている。その一つ、大館市の温泉宿「ふるさわおんせん 光葉館」は、2017年から宿の看板犬として生後2ヶ月の雌の秋田犬を飼い始めると、その愛らしい姿がSNSを通じて世界中に拡散され、国内はもちろん、アジア、北米、ヨーロッパから数多くの客が訪れるようになった。

「以前は外国人のお客さんはほとんどいませんでしたので、本当に驚いています。まさか犬を飼っただけで、これほど変わるとは思いませんでした」と、宿の社長の小林薫さんは言う。

今年5月には、秋田犬と会える新たな場所として、JR大館駅前に観光施設「秋田犬の里」もオープンした。施設には、1~2頭の秋田犬を間近で見ることができる展示室、秋田犬の歴史や特徴を展示したミュージアムなどが設けられた。こうした施設を含め、秋田犬を通じて地域の人と世界の人々が交流する拠点が増えることで、地域の魅力を更に高めていくであろう。