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Highlighting JAPAN

オリンピック、パラリンピックで町おこし

福岡県田川市は、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、海外チームの事前キャンプの迎え入れ準備を進めている。誘致活動開始から4年目、国際的なスポーツ交流を軸とする取組によって市民の意識も変わりつつある。

福岡県中央部に位置する田川市は、かつて炭坑の町として栄えた。そのシンボルである、市内の石炭記念公園に立つ2本の煙突が国の登録有形文化財に登録され、観光のシンボルにもなっている。同市は、現在、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会(以下、オリ・パラ)の事前キャンプを張るチームの迎え入れ準備を官民一体となって進めている。

田川市は、2016年にオリ・パラに参加するアスリート等との交流を行うホストタウンとして登録された。更に2年後には、パラリンピアンとの交流をきっかけに「ユニバーサルデザインの街づくり」や「心のバリアフリー」といった共生社会の実現に向けた取組を推進する「共生社会ホストタウン」として登録され、ドイツ車いすフェンシングチームの受け入れが決まった。

日本とドイツの間には、1974年に始まった、相互にスポーツ少年団を派遣しホームステイ、スポーツ交流を通じて国際経験豊かな指導者育成を目的とする「日独スポーツ少年団同時交流」がある。2012年に田川市がこの事業に参加したことがきっかけとなり、その後、2016年、2018年と交流が続いていた。

この交流を背景に、田川市は、誘致先としてドイツを選んだ。

「2016年にドイツを16日間視察しました。そこで私は、ドイツ車いすフェンシングチームと出会い、田川市のオリ・パラ構想を提案しました。ドイツの役員からは市の総合体育館のバリアフリー化を条件に、チームの事前キャンプ地として内定をいただきました」と市長公室事務主査の平川裕之さんは話す。

田川市は体育館の改修と最新の空調を整備した。しかし市内にバリアフリー完備の宿泊施設がないため、体育館横の駐車場に、移動可能な車いす対応の宿泊設備として「トレーラーハウス」を15台導入する予定である。オリ・パラ後にはスポーツ合宿所や災害時の避難所として活用する計画である。

また、オリンピック・パラリンピック等経済界協議会と地元の自治体や社会福祉協議会とが連携して、市民が、車いすや全盲状態で階段の昇降体験をする「心のバリアフリー」研修を行うことで、市民の障がい者に対する意識が改革されている。このほかにも、バリアフリーマップの作成や、トイレ設備の使用方法について、5か国語対応の音声案内装置を設置するなど案内の多言語化を進めている。

田川市は、2016年から国際交流や誘致活動の支援を目的に国際交流員としてドイツ人を採用している。2017年8月から二人目の国際交流員となったアネマリー・グンツェルさんは、2018年8月にハンブルグで開催された、ドイツ車いすスポーツ連盟(フェンシング部門)、福岡県、田川市の間で行われた調印式で司会を務めたほか、ドイツ語、日本語、英語を駆使し、誘致活動を支援している。

「田川市に初めて国際交流員として訪れたときは、オリ・パラの競技や制度について知らないことが多く、不安でした。しかし、私がパイプ役として文書の翻訳や通訳、簡単なドイツ語レッスンや料理教室でドイツ文化を市民の方に伝えられ、とてもやりがいを感じます」とグンツェルさんは語る。

2018年11月には市内の商店街でドイツの伝統的なランタン祭り「サンクト・マーティン」を開催した。これは、グンツェルさんが小学生にランタンの作り方を教え、そのランタンを飾りドイツ料理やお酒が用意されるイベントである。

2019年3月には、ベラルーシパラリンピック委員会が田川市を視察訪問し、ベラルーシ車いすフェンシングチームのオリ・パラ事前キャンプ地として田川市と仮調印している。

こうした動きに、「英語やドイツ語を活かしたボランティアがしたい」、「ドイツだけでなく、ベラルーシの文化も理解したい」という市民の声が聞こえるようになってきた。

田川市が誘致活動を始めて4年目、ホストタウンであるという意識は市民に根付き、2020年に向けた盛り上がりを見せている。かつての炭坑の町は国際スポーツ交流という新しい顔を併せ持とうとしている。