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Highlighting JAPAN

小さな町の子育て支援と人つなぎ戦略

岡山県奈義町は、官民が一体となって子育てや新しい働き方を支援し、町ぐるみで未来を切り開こうとしている。

岡山県北東部に位置する、人口5,800人ほどの小さな町、奈義町は、2015年に、人口6000人ほどの人口規模を維持しながら町の活力と産業力を保つための「奈義町まち・ひと・しごと創生総合戦略」を策定した。

この戦略は、前年11月に公布された「まち・ひと・しごと創生法」を受け、住民主体のワークショップ開催を重ね、徹底した子育て支援や働き方改革による地域経済の活発化を軸にまとめられた。

実は、2000年代初頭に始まった市町村合併の際、奈義町は小さくとも合併せずに存続することを決断し自治の柱に子育て支援強化を掲げて対策を進めてきた。その結果、2005年には1.41だった合計特殊出生率(全国平均1.26)が2014年には2.81(同1.42)に増えた(直近では2017年2.39、全国同年1.43)。

戦略は、こうした子育て支援を強化するとともに新たな産業を興して経済を活発にする意味を持つものである。その流れの中から誕生した一般社団法人ナギカラは、奈義町から地域再生推進法人の指定を受け、戦略の担い手として様々な事業を展開している。

その代表的な取組が「しごとコンビニ」である。これまで働き手となることが少なかった子育て世代の女性や、退職後の高齢者などの町民と、内外の事業者をつなぐプログラムで、2017年開始以来、登録者は181名に及び、全体の報酬額は2300万円を突破する成果を上げている。

「もともと、町内の事業者からは、人手不足の声が上がっていました。他方で、子育て中のお母さんたちからは、空いた時間で働きたいという声をたくさん聞きました。そこで双方をマッチングする仕組みを作ろうと思いました」とナギカラ代表理事の一井暁子さんは話す。一井さんは、岡山市の人材コンサルタント事業者、株式会社はたらこらぼに協力を要請、官民連携の形でしごとコンビニはスタートした。

しかし、初めから順調だったわけではない。はたらこらぼ代表取締役の日下章子さんは、「内外の事業者も、しごとコンビニに登録している町民も、みなそれぞれ個別の事情を抱えています。ここに丁寧に寄り添う必要がありました」と語る。

しごとコンビニでは、事業者には登録者の雇用ではなく業務を委託してもらい、委託業務を登録者が短時間のワークシェアリングでこなす方式をとっている。チーム体制を築くことで、時間のやりくり、仕事量の配分など登録者同士で補い合うことができる。さらにしごとコンビニは拠点施設である「しごとスタンド」に、子供が遊べるオープンスペースを設けており、子供を連れてそこで仕事をこなすこともできる。

「ただ、業務の委託を待つだけでは、事業を持続していくことに限界を感じました。そこで2018年からは、自分たちで仕事を作る取組を始めました」と、はたらこらぼの井上翔平さんは話す。そして、「しごとコンビニ」は更なる発展を遂げていく。

たとえば、登録者の知恵や技術を教える「町民先生」、得意なことを活かして仕事を生み出す「得意をしごとにプロジェクト&企業サポーターズ」などの事業が生まれ、また「町民先生」で裁縫を教える女性の考案で、子供の古着を再利用してパッチワークに仕立てて商品化する取組を進めている。さらに「企業サポーターズ」では、登録者たちが鶏卵メーカーのギフト商品を企画した。メーカーは、細部まで消費者の意見が反映された案をすぐに採用し、その売れ行きは上々だと言う。

「ここでは、登録者全員が個人事業主となり、地域社会とつながり貢献していることを実感できる。これはとても大きな意義があると思います」と一井さん。

「しごとコンビニ」の事業の核心は、就労支援にとどまらない、新しい働き方の創出にある。今後は、運営を町民が担い、楽しく意欲を持って働く人で町があふれること、そしてそのことが奈義町のブランドとなることを目指す。