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Highlighting JAPAN

 

 

きれいになって気持ちいい、トイレの新習慣を作った「ウォシュレット」

1980年に販売が始まったTOTOの温水洗浄便座「ウォシュレット®」。1980年代後半以降はアメリカ、ヨーロッパ、アジア、オセアニアでも販売され、「おしりを洗いたい」という愛用者は世界中で増え続けている。

今や多くの日本人が「なくては困る」と感じるほど、日本では「おしりを洗う」という習慣が浸透した。ウォシュレットの発売から35年後の2015年には、海外を含む累計出荷台数が4000万台を突破したが、その背景には開発者たちによる様々な工夫があった。

実は、ウォシュレットが発売される1980年の10年以上前に、TOTO株式会社(当時は東洋陶器株式会社)は米国で開発された「ウォッシュエアシート」という製品の輸入販売をしていた。ウォッシュエアシートは手のけがや排泄に関わる病気があり、紙で拭くことが難しい人のために開発されたもので、泌尿器科などを中心に販売されたものだった。

その頃から需要拡大の可能性を見出していた同社は、医療用として開発されたウォッシュエアシートとは違う、トイレの新習慣となる製品を作ろうと、1978年からから自社開発をスタートさせた。

開発に当たって徹底したのは、「快適さ」と「使いやすさ」である。ウォッシュエアシートのユーザーから多く寄せられた「水の温度が安定していない」「当たる角度が不安定で浴び心地が悪い」といったクレームが参考になった。とはいえ、便器に座った時のデータなどはない。そこで社内に実験室を作り、社員の協力を得て、便器に座った時のおしりの位置を調べた。洗浄する時の水温は、0.1℃刻みで温度を変え、ベストな温度を探っていった。こうした検証には、延べ300人以上の社員が協力したという。

検証の結果、便座温度は36℃、温水温度は38℃、ノズルから出た水がおしりに当たる時の角度は43度が、それぞれ最適だと分かった。これらの数値は、発売から40年近く経った現在でもほぼ変わっていない。

一番の課題だった水や温風の温度を安定させるために、ICでのマイコン制御を導入した。同社広報部の桑原由典さんによれば、IC導入にまつわる有名な逸話があると言う。「当初相談していた家電メーカーの人たちは、ICのような精密部品を水のある場所で使うのはやめたほうが良いの一点張りだったそうです。その頃外を歩いていた開発担当者が、ふと目を上げた所信号機に気付きました。その時『信号機は雨に濡れても大丈夫な電子機器だ』とひらめき信号機メーカーに相談、トイレでも使えるマイコン制御のアイデアを実現することができました」

そうして1980年に発売されたウォシュレットは、徐々に販売数を伸ばしてきた。海外市場での売上も順調に伸びており、2020年には世界で5カ所目、海外ではマレーシア、中国に続く3カ所目となるタイにウォシュレット生産工場が稼働予定。さらに海外展開に力を入れていく。

海外展開においては、日本以上にデザイン性が重要視されるのだと言う。「欧米やアジアの国では、日本のようなトイレだけの個室は意外と少なく、洗面所やお風呂と一緒のバスルームが一般的です。そういったバスルームではトイレがいろいろな角度から見える場所に置かれることが多く、見た目の美しさがとてもシビアに求められるのです」と、桑原さんは海外事情についてそう説明する。

カギとなるのは、増加傾向にある訪日外国人の存在である。日本のパブリック空間のトイレの清潔さだけでも多くの外国人は感激するが、ウォシュレットの気持ち良さを知れば、絶対に毎日使いたくなる。「『日本を世界のショールームに』をキーワードに、世界中にTOTOファンを増やしていきます」と、桑原さんは意気込みを語った。