Home > Highlighting JAPAN > Highlighting Japan August 2018 > 日本の夏の楽しみ方

Highlighting JAPAN

 

夏をのりきるための食の知恵

古来、日本人は夏の暑さをしのぐために様々な知恵を働かせてきた。先人より伝わり、今もなお受け継がれている、暑さをのりきる食を紹介する。

日本の夏は、ほとんどの地域が高温多湿の気候であるため、暑さをのりきる食の知恵が根付いている。例えば、体内にたまった熱を取り除く効果があるとされるなすやきゅうり、瓜などの夏野菜が食べられることは今も多い。

「今回のお料理に使ったそうめん瓜は楕円形の黄色がかった瓜で、身体を冷やす働きがあると言われています。夏の暑さをしのぐなら、夏が旬の食材を食べることが基本です。また、お客様の様子やお店の状況などにもよりますが、夏は冷たいものを出すこともよくあります」と「新宿割烹 中嶋」の店主で和食料理人の中嶋貞治さんは言う。

中嶋さんに夏の料理を2品作っていただいた。
1品目は『土用蜆とそうめん瓜の白酢和え』で、二杯酢と花山椒のさわやかさが、暑さでバテ気味の身体を回復させてくれるようである。夏の蜆は『土用蜆』と呼ばれる旬の食材だと言う。2品目は『夏野菜と海鮮の昆布だしジュレ』で、淡泊な味わいの冷たい昆布ジュレを使っている。

管理栄養士であり料理研究家の五十嵐ゆかりさんによると、2品とも夏に食べることで様々な効果が期待できると言う。

「1品目に使われたそうめん瓜は、体内に溜まった余分な熱の放出が期待できるカリウムが豊富です。蜆はたんぱく質が豊富で、様々なミネラルを含んでいるため、夏バテ予防に役立つと考えられます。“土用蜆は腹ぐすり”という言い伝えがあるほど、昔から土用の時期には蜆が食べられていたようです。また、酢には腸内環境を改善させて、疲労の原因となる活性酸素の発生を抑制し、疲れにくい身体づくりを助ける働きが期待できます。2品目の車えびに含まれるたんぱく質、ヤングコーンに含まれるビタミンCには免疫力向上を助ける働きがあるとされる食材です」と五十嵐さんは言う。

「栄養学のない時代、先人は、夏野菜や土用蜆などを夏に食べるメリットの根拠を現代人のように知っていたわけではありません。しかし、“初物七十五日”“初ものは縁起がいい”と言葉が昔からあるほど、先人は旬のものを食べてきました。現代のように季節を問わずに野菜がとれなかったため、春夏秋冬で旬の栄養価が高い食材を食べるのは自然なことであり、それが健康の維持に繋がっていたと考えられます」と五十嵐さんは言う。

家庭の食卓でよく見られる冷たい食べ物の代表格は、そうめんである。小麦粉をこねて細く伸ばした麺で、喉ごしのよさもあって夏に好んで食べられている。また、鰻も夏によく食べられるものの一つである。中嶋さんによれば「この習慣は江戸時代、平賀源内(1728-1779年)が『土用の丑の日』に鰻を食べることを勧めたのがきっかけになった」という説が有力だが、「鰻の旬は秋から冬なので、その頃に食べる方がおいしいと思います」とのことである。

見た目に涼やかな盛り付けの工夫が凝らされているのも、夏の日本料理の特徴である。

「夏に使う器はガラス製や、陶磁器でも独特な透明感をもつ有田焼のように涼しげなものが合います。色にも気を配って、白や緑などさわやかな印象のものを選ぶといいでしょう」と中嶋さんは語る。

日本の暑い夏をのりきるために、先人たちのように、涼を感じさせる盛り付けを楽しみながら、旬の食べ物を多く摂ってはどうだろうか。