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夏を快適に過ごす、家と暮らしの“涼”の工夫

暑くて湿気が多い夏を涼しく過ごすために、日本の住宅には古来より様々な工夫が施されている。さらに、初夏に部屋の模様替えを行い、夏に適した素材やアイテムを取り入れることで、快適かつ涼感を愉しむ暮らしを実践している。

日本の夏は、高温多湿が特徴で、古い書物に「家のつくりやうは、夏をむねとすべし」と記されているように、古い民家には、夏の暑さと湿気をしのぐための知恵が詰まっている。

「住宅で取るべき対策は、直射日光の影響を受けにくいようにすることと風の通り道を確保して湿気をためないことです。古民家に見られる軒の深い茅葺屋根や、廊下がないシンプルな間取りは、日本ならではの工夫といえます」とカスヤアーキテクツオフィス代表・一級建築士の粕谷淳司さんは説明する。

ススキやヨシなどの茎葉を用いて厚さ80㎝程度に葺かれた茅葺屋根は、遮熱性が非常に高く、日射熱を屋根面で遮る。屋根先に設えた深い軒は、屋内に日差しが差し込むのを防ぐ効果がある。また、古民家特有の、廊下がなく土間や広間を引戸で仕切る間取りは、引戸を開けるだけで家中に風を通すことができる。

粕谷さんは、現代の住宅も暑さ対策のポイントは同じと話す。「例えば引戸は、風を通すために開けっ放しにしても邪魔にならず、見た目も美しく収められるため、私が設計する住宅の窓や建具では多く取り入れています。夏なら、細い木を釘や金具を使わずに組み上げた組子建具を使うと、風を十分に通し、見た目にも涼しく感じられるでしょう。間取りは、部屋を細かく区切らず、広くゆったりした空間を配することで、屋内の風通しはもちろん、全館空調の効きも良くしています」。

この他、最新の建築素材も夏の暑さ対策に一役買っている。「軒の出を深くして直射日光を遮れるのは主に南面で、西面の夕日に対しては難しくなります。そこで、以前手掛けた集合住宅には、南面と西面のバルコニー部分に、白いガラス繊維のスクリーンを設置しました。このスクリーンは直射日光を遮りますが、光は透過するため室内に明るさをもたらします」。

一方、暮らしにおいては、夏が近づく頃に部屋の“模様替え”をして、涼し気な素材やアイテムを室内に取り入れる家庭も多い。暮らしのかたち 店長の仁禮琴さんは「ラグマットやテーブルリネンなどを、吸放性が高く肌触りもさらっとしている麻や籐、いぐさを用いたものへ交換すると真夏でも涼やかに過ごせます。最近は日本古来の素材のものも、色やデザインが斬新かつモダンな商品が増えているため、現代のインテリアにも無理なく馴染みます。また、食卓でガラスの器を使ったり、軒先に風鈴を下げたりして、目や耳で涼感を味わうのも素敵です」と話す。

古くから虫よけに用いられている蚊帳も、涼を体感するアイテムとして見直されている。「麻素材100%の布を用いると、蚊帳内の湿度や体感温度が下がり、より快適な眠りが得られます。」と仁禮さんはアドバイスする。

古くから伝わる住宅における涼の知恵や涼やかさを感じるアイテム使いは、暑さをしのぐためだけでなく、夏の暮らしを愉しむ知恵とも言える。