Home > Highlighting JAPAN > Highlighting Japan August 2018 > 日本の夏の楽しみ方

Highlighting JAPAN

 

 

新たな価値を創出した工場夜景

日本の夏の夜を楽しむ選択肢が増えている。中でも美しい景色で人気となった工場夜景の魅力に迫る。

日本の夏の夜の楽しみと言えば、夏まつりや花火を思い浮かべる人も多いが、近年では国立西洋美術館を始め東京、京都、大阪にある国立美術館・博物館が開館時間を延長したり、昼間は見ることができない夜の動物たちの姿を観察する動物園のナイトツアーや寺・神社のライトアップが行われたり、夜のイベントが年々増加している。

中でも話題になっているのが全国各地にある工業地帯の夜景鑑賞である。作業用の明かりに照らされた夜の景色は、無機質な昼間の景色とは打って変わり、まるでSF映画のワンシーンのような迫力と威厳が漂う。工場夜景に代表されるテクノスケープ(人工構造物の景観を指す造語)を研究する近畿大学理工学部社会環境工学科の岡田昌彰教授は、工場夜景の魅力について次のように語る。「一番の魅力は、工業立国として発展してきた日本には各地に工業地帯があり、その多くで美しい景色が楽しめることです。特に化学系のプラントは外側に配管が張り巡らされているため明かり(光量)も多く、漆黒の闇に光る非日常の輝きをこれほど身近に鑑賞できる国は世界でも珍しいと思います。工場夜景は、良い景観を作るために意図的に生み出されたものではなく、公害問題などでマイナスのイメージに捉えられることも多かった工場を、誰かが美しいと発見し、その価値が徐々に広がっていったものです。そのプロセスから、工場夜景を大衆が生み育てたサブカルチャーだとする考え方もあります」。

工場夜景は、その美しさに気付いた一部の写真家が1980年代頃から撮影を始めていたが、岡田教授によるとブームに火がついたのは2000年代前半で、SNSとデジタルカメラの普及とともに広く伝播・共有されていったと言う。その後工場夜景を観光資源として活用する動きも活発化し、鑑賞用のバスツアーやクルージングツアーが登場した。2011年からは工場地帯を有する自治体・観光協会・商工会議所などが様々な情報を共有し、今後の取組や課題について意見交換する「全国工場夜景サミット」も毎年開かれている。

岡田教授に、お勧めの工場夜景とそのポイントを聞いた。「どこにも魅力がありますが、敢えて挙げると、工場から立ちのぼる水蒸気に光を当て、カラフルに彩るアートイベントが話題の八戸の工業地帯(青森県八戸市)、日本最大級の規模を誇り、工場の傍を走るJR鶴見線からも工場夜景が楽しめる京浜工場地帯(神奈川県川崎市)、富士山をバックにした工場夜景と工場地帯を縫うように走る岳南電車が人気の製紙工場群(静岡県富士市)、四日市港ポートビルの展望室から360度の景色が見渡せる四日市コンビナート(三重県四日市市)、美しい工場夜景と海の水面に映る光が山陽新幹線の車窓から見える山口・周南コンビナート(山口県周南市)、高さ205mの煙突がLEDの光で5色に変化する北九州工業地帯(福岡県北九州市)です。どこも個人で自由に鑑賞できますが、ツアーに参加して詳しい説明を聞くとより楽しめると思います」。

普段は立ち入れることができない工場の敷地内が見学コースに含まれるなど、趣向を凝らしたツアーも次々と企画されている。昼間の印象とは全く異なる別世界のような輝きを感じることができるだろう。